シンポジウム


  


第2日(10月28日) 9:30−11:50
ベンチャー企業から見た産業教育の役割と期待


   


司会者
 町井 輝久(北海道大学)

シンポジスト
@ベンチャー企業経営の立場から 井上 武久(株式会社オプトピア)
A社内ベンチャー育成の立場から 森本 正文(株式会社ヨコタコーポレーション)
B地域ベンチャー育成の立場から 吉崎 住夫(徳島県産業振興課 新産業支援室)


ベンチャーに望まれる人材像について
井上 武久(株式会社オプトピア)

ベンチャーの経営者からみた望まれる人材について、これまでの経営者としての経験を踏まえ整理して明らかにしたい。ベンチャーとはニュービジネスにチャレンジする者をいい、既成概念にとらわれない革新的なスピード・能力・方法でリスクを恐れずアイデアを出しそれを実現していく必要がある。そのために、特に重要思われる人材の条件を具体的に列挙して説明する。
1. ノウハウ(知識や技術)だけではなく、知恵を使える人材
 ノウハウは従来の教育でいろいろ教えているが、知恵を使わなければ新しい発想や創造はでてこない。ビジネスには学校教育とは異なり、画一的な答えはなく、いかに知恵を使い条件にマッチした最適な答えを出すかが重要である。
2. プラス思考とへこたれない実行力をもった人材
 「失敗は成功の母」というが、失敗から得られるものは多く、逆にそれをよかったとプラス思考で解釈し、次につなげて行く実行力が必要である。特に最近は挫折や困難を経験することが少なくなったため、それに負けない精神力と実行力が必要とされる。
3. 常識の価値判断だけではなく、戦略的な価値判断ができる人材
 常識的な価値判断は普段のビジネスにおいても非常に重要であるが、商品や市場(マーケット)を創造していくには、革新的な発想と損して得をとるような戦略的な価値判断が必要である。
ベンチャー企業にとってすべてが上記のような人材である必要はないが、少なくともキーマンになる人材には必要な条件であり、そのような人材は単なる「人材」ではなく、社会に貢献し益をもたらす「人財」になると確信している。



社内ベンチャー育成の立場から
森本 正文 (株式会社ヨコタコーポレーション)

はじめに
 ベンチャ−企業は組織的・機能的に成熟されていない会社と言える。一方会社は規模に関係なく基本的な企業機能を必要とする。産業教育においてこの点の理解が必要である。図は研究開発と企業機能の概要を示したものである。企業の成長と共に、組織化・機能化の充実を計る必要がある。設立初期はこの点の充実が難しい。一方、社内ベンチャ−の場合は既存の組織・機能を生かことができるという利点がある。これらをふまえて幾つかの提言をしたい。
 
  研究開発のステップ                 会社の機能

   アイディア                   1.販売(営業)・直販・代理店
      ↓                            
    開   発   アイディア          2.製造(生産)・自社生産・外注
      ↓      の    →  企業化 
 生   産       製品化           3.財務(経理)・資金調達・経理
      ↓                          
    販   売                  4.人事(労務)・採用・労務

1)ベンチャ−を支援する上での課題とその工夫
 ベンチャ−企業の成長における課題は,会社機能の欠如である。新産業創出時代においてベンチャ−と既存企業の相互協力体制の構築が重要と言える。
2)これからの産業教育に求められるもの
 企業人として求められるものは,専門能力とト−タルマネ−ジメント能力と世界観である。学生時代から共同研究に参加することも重要になろう。新製品の開発,ベンチャ−(社内)の育成にも経営計画・総合的判断が要求される。
3)人材の在り方・育て方
 社内ベンチャ−において,起案者(製品開発者)とスタッフ・既存組織の中で異質・新事業の位置付けなど多くの課題を持っている。これを克服するには、社内ベンチャ−の全員が一体感を持ち経営計画を作成できるベンチャ−社員を養成する必要がある。
4)ベンチャ−展開と地域活性化の在り方   
 IT時代における地域感は世界観に変わる必要がある。地域社会の変革に実践教育として携わることも大切と考えられる。
 産業教育においては,高等教育機関の高度な能力と若者のエネルギ−を時代に先行する実践研究を通じて,多くの卒業者が常に社会の変化(進化)の牽引車となることを期待したい。

地域ベンチャー育成の立場から

吉崎住夫 氏(徳島県産業振興課 新産業支援室)


長引く平成不況から日本経済を脱出させるには、新規産業を育成することが必要であるとの認識の下、これまで国や都道府県は積極的にベンチャー企業支援のための施策を進めてきた。この中の一つに、平成11年に施行された新事業創出促進法に基づく施策がある。
経済の新陳代謝を示す企業の開業率を見ると、米国と比較しても著しく低い水準にあり、さらに、長期間にわたり一貫して低下してきた。こうした背景には、新たな事業を始めるに際して、資金調達や人材の発掘・育成が困難であること、経営・販売等のノウハウ・情報が不足していること等の課題が存在していることがあげられる。我が国の人材や技術等の経営資源の蓄積が、諸外国に比べて一定の水準にあるにもかかわらず、それらが有効に活用されず、新たな事業の創出にきちんと結びついてはいないという構造的な課題であった。こうした課題を克服し、創業を初めとした新たな事業の創出を円滑なものとするため、抜本的で総合的な支援策が望まれるに至り、この法律が制定されたのである。
本県では国の施策に呼応し、平成11年度に、「アイデア・企画段階から生産・販売まで」あるいは「創業期から成長期、革新期に至る企業の成長段階」に応じて、適時適切な支援事業を行うための総合的な新事業創出支援体制(地域プラットフォーム)を構築している。(財)とくしま産業振興機構をこの地域プラットフォームの中核となる支援機関、徳島大学や阿南工業高校等専門学校、県立工業技術センター、(株)徳島健康科学総合センター、(社)徳島ニュービジネス協議会等をその他の支援機関として位置づけ、お互いに連携を取りながら中小企業のための各種支援策を実施しているところである。
支援策の中には、起業インターンシップ事業や起業家セミナーなど、ベンチャー育成に向けての人材面での施策も盛り込まれており、シンポジウムでは支援体制全般の説明と併せて具体的に説明させていただくことにしたい。