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 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 




大学教員の職業能力開発としてのFD
「大学教員に求められる職業能力と能力開発プログラム構築の試案」から




森 和夫  技術・技能教育研究所


FDが不明瞭になるのには次のような原因があ

 第1はFDが改善活動であり、成果の挙がる教育を目指す活動と言うことから大学の自己点検評価と切り離さずに議論していることである。
FD活動にとって成果が目標であって、契機である自己点検評価の論理とは異なると考えたい。まして、採用や人事とこのFD活動を重ねて考えるのは筋道が違う。
第2はFD活動の対象が教員個人に向けられるものか、組織に向けられるかで内容が異なる。個人であれば明解である。教員の力量の向上が問題となる。しかし、組織であれば組織の状況が妥当でないか、活性化しないかというように組織自身の問題性を議論しなければならない。一義的には組織ははずして考えることの方が考えやすい。そのような組織を 作るのも個々の教員であり、教員自身が向上すれば組織も向上する。手法として、組織を通じて教員の力量の向上を図ることはありうるが、FD活動のターゲットが組織と設定することには無理があろう。
第3はFD活動が教育の質的向上を掲げることによって、研究活動の引き下げにつながることである。つまり、教育活動と研究活動を対置して考える構造そのものが、FD活動の本質に反することとなる。本来、大学における研究活動は教育活動と切っても切り離せない関係にあるはずである。研究が促進されれば教育内容や教育の質が向上する。また、教育の質的な向上が図れれば研究活動の向上につながる。ただし、これは本質的な教育と研究のかかわりであって、表面的なかかわりである場合には、このようなことは全く期待できない。講義を担当する教員の中には研究が忙しいのでよい講義ができないと言われるが、これは後者の例である。他方、講義のための教材研究をしていて、研究上のよい手がかりが得られたという教員もある。これは前者の例である。教育と研究は二者択一ではない。この論理から推論すると研究大学であればある程、教育大学になるといえる。基礎と臨床のかかわりもこの問題と類似の様相を示している。この発想が大学教員にはなかなか受け入れられないことが多い。
 このように考えてくるとFD活動は教員個人の能力開発を行いながら、組織としての力量をも高める。また、評価は契機としてのみ扱い、FD活動そのものが目指す成果の追求とは分けて考えることにしたい。そして、教育と研究を一体的に行う機関が大学であることを前提にとらえていくことが必要である。
 有本(1998)が述べているように「教員に求められる資質は,大学の教育理念そのものであり,大学の教育理念を実現するために教員の存在があり,その資質を開発することが重要であることが理解できる。」は妥当な指摘であろう。教員個々の能力開発と大学理念の実現は切り離すことができないばかりか、能力開発を基礎に置いて組織の活性化を組み合わせることで大学の機能を発揮できるといえよう。FD活動は両者の実現を標榜するものであり、両者の有機的な結合によってより一層の成果に結実させるように働いている。もともと個人の能力開発ということは大学に所属している以上、組織へのメリットや組織の機能と無縁ではありえない。したがってこの部分に線引きすると言うことは不可能であろう。


現状を克服するための対処の仕方

 第1は多様さを認める社会、高学歴社会での教職員のあり方の認識の問題である。企業もそうであるが大学のような高等教育機関も含めて高学歴で、高度な専門性を有する者に対する能力開発の必要性、必然性にかかる意識が希薄なことに原因があると考えられる。かつて、高度な知識人と呼ばれている者はその博学さゆえに許容されていた部分があると推測できるが、現代社会では多様さの上に成り立つ以上、このような単一で短絡的な思考方法は誤りを導くことが多い。まず、この部分の認識を改めて多様さを認める社会、高学歴社会での教職員のあり方を整理する必要があろう。
 第2に教職員の評価の尺度を単なる業績評価主義で運用しないことである。教職員が一定の研究業績や教育業績を挙げることを評価することはよいが、もともと大学教育理念を実現することが大学の機能としての達成度にかかわるのであることを想起すべきである。大学の教育理念の実現にどのように貢献したかで評価すべきである。このように考えると、研究業績はその一部分に過ぎないことが理解されよう。
第3は能力開発やFD活動を展開した結果、実績主義でトータルにみるようになっているかが問われることである。何を学んだか、何が理解されたか、何ができるようになったかではなく、何が実績として残せるようになったかで見るべきであろう。

能力開発で大学の何が展開できるようになったか、それは社会他でどう評価されているかで見るべきである。このように意識をシフトさせることで違った取り組みが可能となる。大学と教員の関係が、教育と研究の関係のように、見事な相互不可欠の関係として明確に見出せるならば大学教員の能力開発はそのステップをさらに登ることが実感できるに違いない。





詳しくは下記の論文をご覧ください。
テーマ別PDF論文集まとめ [ 指導者論、指導方法論、大学教育FDは→こちら ]

2004  大学教育の改善をめざした実践的・体系的FD活動の方向  大学教育研究ジャーナル誌 第1号、単著
2002  大学教員に求められる職業能力と能力開発プログラム構築の試案−FD活動の機能と能力開発とのかかわりの検討を中心に−  
徳島大学大学開放実践センター紀要 第13巻、単著
2001  リカレント教育ニーズに対応させる大学開放事業のあり方 −徳島地域人材育成ニーズ調査結果の検討から−  
徳島大学大学開放実践センター紀要 第12巻、単著




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