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 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 


クリニカルラダー作成の問題 
2017/1/14,10/14 改訂

森 和夫  技術・技能教育研究所




〇クリニカルラダーを作成することは、それらしきものは簡単にできる。しかし、使用してみて「これでよいのか」という現実に突き当たる。ここから先は妥協してしまうか、あきらめるかのいずれかになっているのではないか。しかし、これを解決することが、ラダー作成の宿命でもあり、良いラダーとなる分かれ目にあると認識すべきだ。

〇ラダー作成の問題の第1は評価者によって評価得点が異なることである。評価基準がわかりずらく、解釈に差が出てしまうのである。第2は優れた看護能力の保有者と劣る能力保有者の得点に差が無いことである。例えば5段階評価とする時に大半が3になってしまうのである。優れた能力の保有者は高い得点が与えられ、低い能力保有者は低い得点が与えられる必要がある。第3はラダー項目が自病院で求められる能力項目を網羅しているかである。漏れや欠けの無いリストが求められる。他病院からのコピーでは不十分な場合が多い。第4に作成者が一部の限られたメンバーで作成する場合、偏った項目設定になる懸念がある。第5は運用と改訂の問題である。ラダーは定期的に見直しと改訂をする必要があるのだが、そうなってはいない現実がある。これは方法論としての困難さが背後にあると推定される。第6はクリニカルラダーはもともと看護の継続教育のために作成するものだが、作成・評価と院内教育が分離してしまい、教育に反映していないことが多いのである。その活用の仕方、教育計画への展開の仕方が十分に配慮されていないのである。

〇ラダーはその病院独自のものを作成しなければ機能しないものだ。例えば、他病院のラダーの中からピックアップして作成したものは使えないことが多い。経営組織が違い、病院の立地や規模、看護体制、病院の機能、理念が違うのにラダーが同じであるはずがない。例えばリハビリテーション病院と大規模な総合病院ではラダーも当然、異なる、看護のジェネラリストとしてのラダーはもちろんのことだが、診療科によっても病棟によってもラダーが違うはずである。どの病棟でも一般ラダーのほかに専門ラダーが必要となることは当然のことだ。最近は専門ラダーを作成することが多くなってきている。看護全般の一般ラダーから専門看護ラダー作成へと変化しつつある。筆者のかかわった範囲では、ICUラダー、感染症ラダー、医療安全ラダー、精神科ラダー、小児科ラダー、整形外科ラダー、新生児室ラダー・・・などが作成されている。看護師長が自分の担当病棟のスタッフだけのラダーを作成することもよい。このように病院の特性に合わせて小回りの良い作成をするとよい。

〇私たちはCUDBAS手法を使って能率的にラダー項目を書き上げることで短時間の開発を進めている。どんなに長期間かかったとしても6か月もあれば実用的なクリニカルラダーを作成できる。CUDBAS手法は看護実践能力を書き出すには効果的な方法で、瞬く間に実際の必要能力を集めることができる。
5~6人で、3時間もあればラダー項目が書き上がる。しかも、重要度順に、配列してある。詳しくは「CUDBASとは」「クリニカルラダーの作成の方法」を参照いただきたい。

  

〇このようにハイスピードで書き上げまではでき、一般にラダー項目はこれで実際の評価に使用していることが多い。
クリニカルラダーを作成することは、ここからが大事な作業になる。もっと詳しく見ていこう。

ラダー評価項目の文章の問題
○他の業界でも同様のことがあるが、医療関係者、看護者で日常使われていることばに「曖昧」な言葉が多いことだ。特にマインドを扱う用語は不明瞭な用語が多く見られる。一般的に使用されている用語は不明瞭である。一般用語ほど曖昧さを助長するものはない。例えば、「患者によりそう看護・・」と書かれることがあるが、評価する際に優れた看護とそうでない看護とを明瞭に分けて5段階評価できるだろうか。「よりそう」とは具体的にはどうすることか、明瞭でなければ評価にブレがでる。
 例えば「確認する」とは何かである。確認とは何をどうすることなのかが明らかにならないと勝手に解釈してしまう。文章に不備があることも多い。例えば対象は誰かが書かれていなかったり、対象者の範囲が書かれていないことはよくある。「手順通りできる」と書いてあっても、固有名詞ではないためにどんな「手順」なのかが一致しない。
○ラダー項目を実際に評価する立場で点検すると下記のようなコメント分類になった。
  1 具体的にして下さい
  2 限定して下さい
  3 分けて下さい
  4 良いと悪いの違いは何ですか
  5 能力ではありません
  6 1か5になりませんか
  7 相手は誰ですか
  8 その意味は何ですか
  9 ・・・とは何ですか
  10 程度を書いて下さい
○ラダーはその文章で正しく評価できることが大切だ。判断にブレがないこと、5段階評価できることである。優れた人が高得点で、劣る人が低得点になるように書き上げなければならない。ラダー評価を自己評価で行うと、新人ほど高得点で、ベテランほど低得点になることがある。これは文章に含まれている意味の解釈が一定でないから起こるのである。新人はその項目の内容をよく知らないために、「私は十分できる」と答え、ベテランはその項目の奥の深さを知っているので「まだまだ、できない」と答えるからだ。詳しくは「ラダー項目の書き方」を参照いただきたい。



ラダー評価者による問題
○正しい評価が行われない大きな原因のもう一つは評価者による違いである。評価者間で認識が違うと評価結果も違う。評価の根拠は何かが違うこともある。さらに評価者がどれほど評価対象者を観察し、判断できるかという要因が加わる。

ラダー評価実施方法の問題
○実施方法が曖昧であると、評価結果に大きな誤差が入ってしまう。実施期間が長ければそれだけ誤差が入りやすくなる。短い方が良いが、十分観察できるかが問題となる。また、根拠が何に基づくものかを明瞭にしていないため、評価者によって差が出てしまう。

これらの問題をどうすれば解決できるか
○これらの問題を解決するにはラダー項目文章を適切にすることと、周到な準備で行う。
まず、自病院のラダー項目として適切な項目を書き上げることだ。決して、他病院のラダーをコピーしてはならない。始めは不安かもしれないが、とにかく自力で書き上げてみることである。しかも、病院の中でも将来を担う優れた看護師達とともにチームで作り上げる。次に、文章のチェックが大切だ。「これで評価できるか」という目線で見直し、5段階評価できる文章に直していく。
○評価者間の認識を同一にするには判断基準の調整が必要になる。どんな人が「5」で、どんな人が「3」かを一致できるよう基準を示すことだ。「5」と「3」を明確にできれば「1」は「全く知らないかできない」だから、「4」と「2」は中間で、想像できる。
○評価対象者の観察については同一の場面、条件設定でできるようにする。「いつ、どんな場面で、何をもとに」評価するかを明らかにする。通常、ラダー評価の期間は決められているので、その期間中の「いつ」に行えば適切な評価ができるかで考える。さらに、「どんな場面」で評価するかも設定できれば逃すことはない。「何をもとに」とは報告書や、観察記録や帳票類などの手がかりをさしている。 評価をする側のやるべきことは何かを示す「ラダー評価ガイドライン」を作成して、評価者打ち合わせ会で判断基準の統一を図ると良いだろう。
○ラダー項目の文章点検が完了したら、トライアルを実施する。トライアルは次のように行う。
トライアル評価者2~3名がよく知る人物「5(優れた上位者)」、「3(普通の中位者)」、「1(劣る下位者)」について、同時に評価得点を記入する。その結果を分析して評価の一致度を検証すればよい。不一致は何から起こるかを検討すれば良い項目に改善できる。下の図のように評価者Aと評価者Bでそれぞれ3名の対象者を評価するとき、評価者AはA5>A3>A1という得点を示し、 B5>B3>B1という得点を示す。更に、A5=B5 A3=B3 A1=B1であると良い。
このように評価結果が出るかどうかを検証するのである。
○トライアル結果を整理してみると、評価者間で違いが出る原因は評価項目の文章にあるか、観点のずれはなぜ起こるか、どうして評価が分かれたのかを話し合うと修正のための手がかりを得られることが多い。この作業を完了すれば、ラダーとして完成度の高い内容にすることができる。


○トライアル結果から信頼性を高めるためにどうすべきかは「ラダー項目の信頼性」をご覧ください



クリニカルラダー作成の先へ
クリニカルラダーを作成したら、それによって評価し、教育計画に反映させることが大切である。単に評価することだけが目的ではない。教育計画を作成し、指導を実践して結果が出るのである。このためには能力マップとして整理することが良い。能力マップはスタッフの能力の保有状況が一目でわかる便利なツールである。クリニカルラダーによる評価結果があればすぐに作成できる。これについては「能力マップ」を参照いただきたい。





←※こちらもご覧ください


※ラダーに関する情報は→こちら 



商品番号 17154-1
  クリニカルラダーを作成する方法
生放送オンラインセミナー 
※講義時間〈基礎編〉約
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〈基礎編〉2021年10月17日(日)10:00 ~ 15:00
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「看護人材育成」誌2016年4・5月号に、クリニカルラダーの記事を掲載。
「初めてでも安心!CUDBASを用いたラダーの作成・見直し方法」
 1. いまどきのラダーの動向と見直しの意義
 2. 見直さなくて済むラダーはどう作成するか
 3. 現行ラダーを見直して作成するにはどうする:か
 4. ラダーの備えるべき条件を実現する
 5. ラダー文章の改訂コンサルテーションの事例
 6. トライアルのコンサルテーションの事例
 7. 機能するクリニカルラダーを求めて
 

2019年6月、「看護人材育成」誌にクリニカルラダーと能力マップに関する記事を掲載。
充実した院内教育につなげる組織・部署にあわせたラダー作成~クリニカルラダーと能力マップが拓く院内教育の新しい姿~」






○クドバスイントロダクションセミナーを開講しています
○ご自宅や職場から参加できます。時間は2時間です。質疑応答もできます。
○ZOOM会議システムを使用する少人数セミナーです。誰でも簡単にセットできる「参加の仕方ガイドブック」を配布します。
○このセミナーではクドバスの全貌と成果物について紹介します。
○クリニカルラダー作成は実績の多いクドバスによる作成が近道です。
○お申込み次第、「CUDBASイントロダクションセミナーテキスト」を事前に郵送します。(テキストにはCUDBASマニュアル簡略版が記載されています)
○このセミナーではラダー作成の仕方についてもご案内します。
詳しくは→ こちら

■クドバスセミナーは一般財団法人 職業教育開発協会で定期的に開催しています
 ラダー作成の方法についても演習していますので、こちらにご参加ください。

■なお、4名以上で同じ病院から参加される場合は、その場でラダーを作成できます。
 また、セミナー終了後3ヶ月間のフォローアップ指導をしています。ご希望の方はお申し出ください。


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森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(〜2006年3月)、徳島大学教授(〜2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(〜2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。

基礎研究とプロダクツの関連
 技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。









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技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス



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日本能率協会コンサルティング
A5判、208ページ、定価2,940円(税込み)