能力はどう考えたらよいのか
人は能力によって生き、能力がそれによって開発される。
また、意図的に能力を開発して生き方を変えようとする。能力は人の生活と切り離すことは出来ない。能力は生活が育ててきたのだ。
能力開発でいう能力とは生き方を支えるものとしての「能力」であって、決して差別化・顕在化のための道具としての「能力」ではないのだ。
能力は誰でもが持っており、誰でもが持っていないものだ。
能力は備わっているものと後から加わっていくものとに分けられる。
したがって、固定した能力というものはない。能力は変化するものである。
これを固定的、生得的なものに限定してしまって正しく把握できないことが残る。
「能力」を原点から捉えなおすことが、今ほど大事なときは無い。
原点から捉えなおすということは「人間とは何か」を見つめなおすことに他ならないのである。
そのことは「人が生きること」について、見つめなおすことだ。
今、何故、能力なのか
能力は人が生きる上で大切なものとの認識が広がってきた。
能力主義人事を始めとして、経験年数主義・年功序列主義からの転換がある。
各種の資格取得、実力主義というものへシフトしてきた。
能力がこれまで考えられていたものと違うのではないかとの疑問がある。
子供たちは誤った能力観のもとでは決して良くは育たない。
誤った能力観には誤った教育が行われ、誤った評価をするものである。
これを救うには新しい能力観が求められる。
子供たちの状況は狭い範囲の能力概念でしばることに対する反発ではないか。
例えば、登校拒否、非行、犯罪・・・、全てが学校で思いも寄らないことばかりのように思う。
本質から考えることへの回帰のきざしが始まった。
教育ばかりでなく、個々人にとっても、新しい時代の新しい能力観へと転換が迫られている。しかし、まだ到達点は低い。
職場での能力の扱われ方はどうか。能力の有無を厳しく問いかけはするが、この際、具体性の無い抽象的な漠然とした言い方をするために結果として本人との間にズレが生じてしまう。
学生たちの就職活動での問題を見れば、いろいろなことがわかる。働きたいと思うが就職活動がいやだという。就職の際に評価される内容が、自分の評価してほしいところと違うのである。
社会も気づき始めている。これまでの既成概念で評価しない方が良い成果を発揮したり、「落ちこぼれ」といわれる若者の方が優れた力を持っていたり何かおかしいと感じている。
「生物の能力」と「人間の能力」はどこが違うか
・ 生物は生きる、考える、生命を全うすることが基盤にある。
・ 精神的な側面やどう生きるかという哲学的側面はあまり見出せない。
・ 生物と人間の能力比較の決定的な違いは環境に対する働きかけの方法にある。
・ 生物たちが長い年月を経て生きることと関わって築いてきたが、人間の場合は恣意的で作為的であることが多い。
・ 創造的・創作的な活動が加わることによって多様な能力が開花した。
・ 他の生物(動物)と決定的に違うのは人体の構造の優位性にありそうである。
・ 有為な点は何か。
@頭脳と思考、A眼と手による把握、B足と歩行移動・・・
「機械の能力」と「人間の能力」はどこが違うか
サービスで考えると・・・
「機械のサービス」は
・ 過剰でない適量適切なものを実現しようとする。人間との接触がない自由な、精神的な自由さがある。人間的な曖昧さや感情の入らないビジネスライクな処理である。ユーザーはわずらわしい人扱いから逃れられる。
・ 能力があれば上限がない。心地よさを存分にかなえてくれる。納得でき、確かな選択ができる。十分な説明が得られる。気遣いや心配りなどを知ることができる。過不足が生じる。機械の無神経さにいらだつことから逃れられる。「機械の能力」と「人間の能力」の違いは・・
・ 機械が予定した「対象・方法・結果」をもとに仕組まれているに対して、人間はほとんど仕組まれていない。
・ 機械は状況対応力が低いが、人間は高い。
・ 機械は定められたことについては人間以上に力を発揮するが、定められていないことについてはひどく無力である。
・ 機械に感情や情緒的な対応を要求することは困難である。人間は常に感情や情緒とセットで行動しているために問題を引き起こすことも、最高度の対応をすることも出来る。
・ 機械は一定の力を継続的に発揮することが出来るが、人間は変化する力を変動しながら発揮できる。
・ 機械は一度セットされると、新たに機能を付け加えない限り同じ力しか発揮できないが、人間はその後も実行することによって絶えず習熟し続ける。
・ 機械は一定の規則性、法則性によって動くが、人間はそれ以外に経験則・体験によって修正しながら動く。
能力というイメージを整理する
(1) 対社会的な能力と対人間の能力というものがある。
(2) 生活を送る上に大事で基本的な能力というものがある。
(3) 生物的で生存・生命維持という生き物としての能力がある。
(4) 能力は開発され、学習や経験によって進展する。
(5) 極めて個人的で、個性的な内容である。
(6) 感情に左右されがちである。
(7) その時期ごとに変化する存在である。
(8) 性、年齢、環境で異なる。
(9) 感覚的能力、知的能力、運動能力という分け方もある。
(10) 未来に向けた生き方にかかわる
(11) とても優れた能力というものがある
能力の性質や特徴は何か
(1) 人の能力は限定されないもので、その範囲はどこまでかは決めることは出来ない。
(2) 生物の能力は生存や生命の維持に伴って開花するが、人間の能力はそれ以外の関心や好奇心や他者によって触発されて形成され、育成される。能力の発展拡大は広がりを持っている。
(3) 学校で指導している能力は子供の能力の一部分に過ぎない。能力をさまざまな方向で開花するように仕向ける1つの機関として責任を持っているといえるだろう。
(4) 能力は社会が異なれば、異なった能力が育っている。社会や環境がその人の諸能力発現の源にはある。
(5) 試験で試すことの出来る能力は人間の持つ能力の数パーセントに満たない。試験で試すことの出来ない能力の法がはるかに多いとみなすべきであろう。
(6) 能力は時間を超え、いつの世でも見ることが出来るとはいえない。結果で推測するのみである。その能力の継承に至っては困難が伴う。
(7) 能力は人によって異なる。その質と量については多様であるといってよい、近いものはいるが、同一というものは皆無に近いだろう。
(8) 人はその生涯かけて自らを育てることが出来る。発展もするし、衰退することはない。
(9) 天才と呼ばれる人はある意味で鈍才でもある。なぜなら、開花する内容、方向が全面的にはありえないから。
(10) 鈍才という言い方はありえない。鈍才というのは開かれていないか、その機会を逃してしまったかである。
つづく
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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(?2006年3月)、徳島大学教授(?2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(?2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。
基礎研究とプロダクツの関連
技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。