キーワード解説 「能力管理とは何か」
管理能力という言葉あるが能力管理という言葉は無い。
しかし、実態は数多くある。しかも、日常的に多くの組織、職場で行われている。
例えば目標管理という言葉は組織目標を個人もしくは部署目標に置き換えてその到達のために努力することだ。
能力管理の分野の一角を構成している。ここでは能力管理について考えてみよう。
森 和夫 技術・技能教育研究所
■組織があるから能力管理が存在する
能力管理とは何かについて検討しよう。この名称は一見、危険な言葉である。能力を管理するのだから・・・。しかし、人間社会では不要なものは駆逐され、淘汰される。この言葉は必要があって存在する。これまで考えられていた能力開発の中心は個人主導の能力開発である。自らの生き方に基づいて能力を高め、充実した生涯を創りあげることを指している。ここで論じようとしているのは組織主導の能力開発である。例えば、大学は職業教育機関としての役割を持っているが、必ずしも卒業だけでは企業、組織の求める人材とはならない。大学は個人主導の学習である。学生の自らの自由意志によって選択し、学習する。獲得した能力は大学によっても違い、個人によっても違う。組織に属さないのであればそれはそれとして意味があるが、組織に属した時点から組織主導の能力開発が始まる。組織の一員として活躍するには能力的に不足があるのが通常だ。しかし、組織が教育を強制することは能力管理の本旨ではなく、一定の調和が必要になる。
組織は目的があって構成する。目的の下に組織はあると言って良い。能力管理は組織があって行われる管理の一つである。組織の目的を達成するためにはどのように組織構成員の能力開発を行うかがテーマになる。このように考えると、能力管理という言葉が無かった時代から能力管理の実態はあったことに気づく。
工場で技術・技能伝承が行われている。これは工場が未来に向けて維持発展するためには欠かせないものだ。これは個人のための能力開発ではなく、組織のための能力開発である。直接的には組織に属する個人に対して行われる。この結果、工場の人材の層が厚くなり、安定的に生産活動が行われるようになる。このことは個人の生活を守り、充実した職業生涯に多大な貢献をする。技術・技能伝承は工場と個人を守るために行われる組織的活動である。
例えば、医療機関である病院の看護部という組織があるとすれば、看護部にとって必要な人材は何かを追究することになる。だから看護部の管理職にある者は当然、能力管理を実践することが必要となる。組織にとって大事な人材はどのようにして育成すべきかというテーマで活動するのである。
■能力管理の定義
一人の個人が組織に所属し、目的をもった活動に従事するとき、能力管理は意味をもつ。一人の個人が何も目的をもたず、組織に属さない場合には能力管理の対象にはならない。 能力管理は、組織としての成果や結果を出すことを最終目的とする活動である。だから、組織がどのような理念の基で、何を目的に活動しているかが根本にある。能力管理とは「組織人としての活動を維持・発展させることを目的として、組織構成員の能力向上を図り、組織体としての成果を上げること」としよう。この際に留意すべきは、いかにして組織構成員ひとり一人の個を実現するかである。
これまで多くの見解で述べられてきた「個人の職業生涯の充実のための能力開発」から、「組織の維持発展のための能力開発」にシフトさせることとなる。個人と組織は相反するものではなく共生・共存の関係であるべきである。従って、能力管理の方法においてこれらを実現するように働きかけることになる。実際に能力管理を進めるには一定の理解が必要だ。能力管理が組織の期待・希望を提示して、個人がそれに賛同し、かつ前向きに取り組むことが前提としてある。これが無い場合にはさまざまな問題が発生する。
■能力管理の位置づけ
能力管理の周囲にはこれまで行われてきたいくつかの管理がある。労務管理、人事管理、作業管理、生産管理がそれらである。能力管理はこれらの管理と共にその機能を発揮する。従来からも、能力管理はあったが不明瞭なまま存在していたものだ。能力開発や教育研修などと呼ばれていたがマネジメントとして位置付いてはいなかった。
つづく
※キャパシティ管理、能力管理という言葉がIT用語にあるが、これはコンピュータの容量管理のことである。
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2020年8月21日発売
「実践 現場の能力管理〜生産性が向上する人材育成マネジメント〜」
目次
まえがき
本書の概要と使い方
第1章 職場の課題と能力管理
第2章 能力管理とは何か,その範囲と機能
第3章 能力マップによる能力管理の方法
第4章 作業指導による能力管理の方法
第5章 能力管理の推進モデル
第6章 能力管理の実際(事例編)
A5版192頁、価格 2700円税別
■飛躍的な生産性向上を可能にする人材育成マネジメント手法「能力管理」を習得できる一冊!
組織の維持・発展には、組織のもつ優れた技術・技能を他者に伝えることが欠かせません。組織が生み出す製品・サービスの品質を担保するのは、最終的には一人ひとりの技術・技能だからです。
能力管理は、「保有する技能・技術を効果的な能力開発につなげることで、結果として個々人が能力を発揮できるような環境を整える」マネジメント手法です。かつては「誰に能力を管理する権限があるのだ?」と誤解され、ようやく使えるようになったのはつい最近のことです。
本書は、体系化されたマネジメント手法としての能力管理を具体的な事例をもとに解説しており、すぐに現場(会社)で役立てることができます。
日科技連出版社から、「実践 現場の能力管理」を2020年8月に発刊。
全国の書店、Amazon、楽天ブックス他で購入できます。
詳しくは日科技連出版社のホームページへ
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"Skilled Labor on High-Tech Age"
大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
・誰でも、いつでも読める電子書籍です
eBOOKのダウンロードは → こちら
Contents
1. Thinking about Skill and Technology
2. Clarifying the Science of Skill
3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
4. Skilled Work on High-Tech Age
5. High-Tech Skills and Original Skills
6. Technical Education on High-Tech Age
7. The Path to High Level Skill
8. Digital Task and Analog Task
9. Engineer Education and Skilled Worker Education
Reference
Message from author
「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」
「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
・誰でも、いつでも読める電子書籍です
eBOOKのダウンロードは → こちら
目 次
1 技能と技術を考える
2 技能の科学を明らかにすること
3 「技」が創る「知」の世界−酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
4 ハイテク時代の技能労働
5 ハイテク技能と原初技能
6 ハイテク時代の技能教育とその展望
7 高度熟練への道
8 デジタルタスクとアナログタスク
9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
あとがき
著者プロフィール
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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(?2006年3月)、徳島大学教授(?2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(?2000年3月)。学会活動は日本職業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。
基礎研究とプロダクツの関連
技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。
GINOUKEN Essential シリーズ(2020年版)は→こちら
技術・技能教育研究所の研究開発成果のバックナンバーから最新の成果までを収録
技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス、能力管理
←こちらも参照ください。
←※こちらもご覧ください
技術・技能伝承論文集
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2020年、セミナーを開催しています。
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