キーワード解説
「モノづくりとは何か(その1)」
森 和夫 技術・技能教育研究所
「ハイテク時代の技能労働」(1995)、「技術・技能論」(2018)より転載
モノづくりとは何か
国語辞典にも現代用語辞典にも無い
「物」は「天地間の有形無形のいっさい、品物、物品」とある
「モノづくり」はモノを作ることの名詞形。
「物」は不特定の対象になる→「モノ」を生産物としたい。
定義:「モノ」とは「人間の生活に使用される製品もしくは作品」である。
モノづくりは次の3つの内容を持つ
①無為のものを有形に変化させる、あるいは有形を組み合わせる。
→形あるものをつくり出す。
→目的を持ったものをつくり出す。
②無用のものを有用に変化させる。
→人間生活に有用ならしめる。
③無秩序を秩序あるものに変える。
→人間生活の秩序に合わせる。
モノづくりは
①機能を持たせる。
②価値を吹き込む活動である。
③人間の生き方、暮らし方、未来に関わる。
モノづくりとはどんな活動か
①人間が関与する。
②プロセスである。
③巧拙がつきまとう。
技能者はモノづくりの主人公
素材を見極め、優れた動作によって目的とするモノをつくり出す
道具や機械を知り尽くし、我が身のように扱う
モノを大事にする
優れた作品を見る眼を持っている
モノを仕上げることにこだわる
モノづくりの観点の見方、考え方ができる
モノづくりが大切な訳
モノづくりは社会に貢献するというばかりではない
モノの価値が高いばかりではない
モノづくりは人を育てるのである
モノの価値意識が育つ
人間の生活、生き方を育てる
プロセスの喜び、楽しさを育てる
モノを通じた人間交流ができる
価値を体験できる
創意工夫、創作を発揮できる
基本的技能を学習できる
キーワード解説
「モノづくりとは何か(その2)」
森 和夫 技術・技能教育研究所
モノづくりとは何か
再び、「モノづくりとは何か」について考えてみたい。
そのためにはまず、「モノ」とは何かから説き起こしてみよう。
モノとはいったい何であろうか。次のように規定したい。
- モノとは生産の対象物である。
- モノとは企業が生産するモノもある。
- モノは人の暮らしと生活に役立つ。
- モノは地球の維持と発展に寄与する。
- モノは存在するだけでは意味、意義はない。使われ、活用されて意味がある。
- モノは必要なだけ生産すべきで、それ以上は無用となり、モノとはならない。
さらに発展させて考えると・・・
- モノは自然界に存在する物質を取り出すことでモノとすることができる
- しかし、生きている動物、植物を採取することでモノとはならない。
- モノは粉体であれ、固体であれ、流体であれ、その形は問わない。
- モノには無形のモノも存在する。
- モノは不変ではなく、変化する存在である。
- 変化は時間、環境、状況がパラメータになる。
モノの形とはどのようなものだろうか・・・・
- モノには有形のモノと、無形のモノがある。
- 有形のモノには次の種類がある。
≫ 単一のモノ
≫ 複合のモノ
≫ 組み合わせのモノ
≫ 融合のモノ
- 無形のモノとは秩序を与えたモノである。
モノを作るとは何か・・・
- モノをつくるには人が関与しなければ行われない。
- モノづくりは人の営みである。
- モノを作るには方法と手段があり、これを技術と呼ぶ。
- モノを作るには人がその能力を発揮して、実行しなければならない。これを技能と呼ぶ。
- モノを作るには考え方、判断があり、これを知識と呼ぶ。
- モノを作るには道具や設備が必要なこともある。
- 道具とは人の手、足、体の機能の延長にあるモノである。
- 設備とは生産に必要な機械、装置、動力などを計画的に配置したモノである。
- 人はモノを利用してモノを作る。
モノづくりがもたらすものは何か・・・・
- モノづくりは人の暮らし、生活に役立つことで人々に豊かさをもたらす。
- 物質的な豊かさは精神的な豊かさとは異なるが、精神的な豊かさの基盤を構成する。
- モノを作ることは必ずしも自然の道理にかなうとは限らない。
- 意図しなければモノづくりは自然に反する結果をもたらす。
- モノが自然界から生まれることは、モノの終焉が自然界でなければならない。
- モノはその機能性が尊重されるがためにそのほかの機能とのバランスは見失いがちである。
- モノが地球に存在する限り、人の暮らしは豊かになる。しかし、地球にとって、モノが負の要因であることを忘れてはならない。
- モノが絶対的な存在である以上、人間はモノについて永久に責任を持たなければならない。なぜなら、地球は有限であるからだ。
モノの価値とは何か・・・・
- モノの価値は機能性の評価とは無関係であるにかかわらず、人はそれを評価してしまう。
- ある時はモノを評価するが、ある時は評価されない。人によって評価も違う。時代が変わればモノに対する評価も異なる。
- モノの評価は時空を超えたものにはならない。
- モノの評価は絶対評価ではなく、相対的に決まる評価に過ぎない。
- モノはこの意味で、価値の浮遊の中に置かれている。
- モノの価値は時代的な背景の中で、場所という空間の中で変動し、漂流する。
- だから、リニューアルという価値もある。見直し、時代に合わせ、場所に合わせて登場することで価値が出る。
- モノに価値を持たせたいとするには、時空に合わせて操作すればよい。
モノづくりということ・・・
- モノづくりは人の暮らしを支える仕事、人が「モノをどう受けとめるか」が基本にある。
- モノづくりは人が「こう、受けとめるに違いない」という傲慢さで行ってはならない。人の自然な発想と生き方に対して真摯でなければならない。
- モノづくりを通して、人に貢献するとは・・、豊かさとは・・、人が地球とともに生きるとは・・、を学ぶことが大切である。
- モノを大切にし、モノを生み出す意味を考え、モノが自然に帰ることを常に意識化していかなければならない。
- モノづくりを通して、人に貢献するとは・・、豊かさとは・・、人が地球とともに生きるとは・・、を学ぶことが大切である。
- モノを大切にし、モノを生み出す意味を考え、モノが自然に帰ることを常に意識化していかなければならない。
- モノづくりは人が行う行為の中で最も挑戦的な仕事である。
- モノづくりのプロセスには多くの人として学ぶことが含まれている。
現代の職人を考える~新職人論~ 2020/09
職人について調べてみると、これが職人の定義なのか?と思うことがある。
このような古いイメージの職人は現代社会では少ないのである。
現代の職人とは何か、街中にも工場にも、もっと広げて言えばものづくり以外にも職人はいる。
ここでは現代に合わせて職人を描いてみよう。
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2018/3/20 大妻女子大学人間生活文化研究所から出版し公開しました。
森 和夫「技術・技能論-技術・技能の変化と教育訓練-」
"Skilled Labor on High-Tech Age"
大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
・誰でも、いつでも読める電子書籍です
eBOOKのダウンロードは → こちら
Contents
1. Thinking about Skill and Technology
2. Clarifying the Science of Skill
3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
4. Skilled Work on High-Tech Age
5. High-Tech Skills and Original Skills
6. Technical Education on High-Tech Age
7. The Path to High Level Skill
8. Digital Task and Analog Task
9. Engineer Education and Skilled Worker Education
Reference
Message from author
「技術・技能論-技術・技能の変化と教育訓練-」
「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
・誰でも、いつでも読める電子書籍です
eBOOKのダウンロードは → こちら
目 次
1 技能と技術を考える
2 技能の科学を明らかにすること
3 「技」が創る「知」の世界-酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
4 ハイテク時代の技能労働
5 ハイテク技能と原初技能
6 ハイテク時代の技能教育とその展望
7 高度熟練への道
8 デジタルタスクとアナログタスク
9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
あとがき
著者プロフィール
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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役。
主な経歴は東京農工大学教授(〜2006年3月)、徳島大学教授(〜2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(〜2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。
基礎研究とプロダクツの関連
技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。
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森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号
職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996
技術・技能伝承論文集