職人とは何か
職人とは何だろうか、国語辞典では職人は「伝統工芸や手工業的製造業の技能者。大工,左官,植木屋,仕立屋などのように,自分の身につけた技術で物を作ることを職業にしている人たちの総称。」とある。また,匠とは「手や道具を用いて作り出すことを生業とする人であり,職人と同義語にも用いる。」これらを見る限り,手わざを中心とした技能者であり,これによって生計を営む職業人,つまり,自らの生活を技によって支えている職業人をさして言うようである。生業(なりわい)として技が原点としてあり,その結果として技の成果をもたらすものである。
職人の考え方の原点には「こだわり」がいつも見いだせる。いわば妥協しないことの意味,意義が見いだせる。例えば,素材へのこだわり,道具へのこだわり,機械に対するこだわりなどがこれである。一般に,ものづくりには必然的にこだわりが欠かせない。職人たちは最高・最良のものを目指すためにそれにふさわしいあり方を追及しているのである。
筆者が経験した職人たちとの対談,職人の意見発表,仕事場でのインタビューをもとにして,仕事の仕方について整理してみると次のようになる。
(1) 全工程の仕事を行う
(2) 優れた実践展開力を持つ
(3) 本質を理解する力がある
(4) 仕事の創造を実践する
(5) 経験ベースの能力保有・維持の仕方
(6) ユーザオリエンテッドの考え方
(7) 無理,無駄,ムラなくエコロジカル
(1)の全工程仕事とは,受注から納品,設置までの全工程を行うことである。仕事の計画・企画から始まって準備・実行・検査を行い,引渡しまでを行う。これは作業の中枢部分ともいうべき企画・全体計画に関与し,評価も行う。ユーザとのコミュニケーションが行われ,評価結果をも収集できる。仕事の段取りが行えることは熟練職人の必須条件であるが,これは全工程仕事をすることで習得できるものだ。段取りには時間計画,工程計画,道具・材料揃え,人・物・場所などの手配,情報の制御が含まれる。
(2)は仕事に精通していることが基礎にあって,どのような困難さも理屈ではなく実践で乗り越えることだ。創意工夫で片づけてしまうのである。一見,不合理のように見えるが,その行動はきわめて合理的で,理にかなっている。職人は経験則から原則・規則を見いだしているといえる。機械・システムにかかわる技能の場合には技術的理解に基づいた経験則で構成されている。
(3)は本質的理解である。作業を何回か経験すると,今,体験している作業がこれまでの経験のどの位置にあるかを推測するようになる。体験の増加で,作業の体系が構築される。体系を把握するところに本質理解が伴う。一度,本質の理解が行われるとこれを機軸に展開するようになるため,技能は一段と高速で良質なものへ進展する。初めて体験する仕事も,これまでの本質理解をもとに成功の確率の高い進め方を実行できるのである。
(4)は仕事の創造である。過去に同じ体験,経験をしていても,現在の状況は常に新しい状況にある。表具師は,かつて使用していた紙が生産中止になった場合,今,入手できる紙の特性を把握し,その特性に合った方法で従来と同等以上の施工結果を得るという。これは世の中の状況が絶えず変化しているために創造的に仕事をせざるを得ないのである。職人はこれを求められ,これを実行する。
(5)は職人技の形成は経験であり,経験値を基準に行動を組み立てている。経験が行動の規範となり,尺度となる。(5)はこれを指している。これらの保持の仕方はアナログ的に保有しており,状況や条件によって適宜,呼び出して実行していると考えられる。職人が自分の行動を記載したものはあまりない。メモに要点を書きとめることが多い。
(6)では仕事の依頼者の満足を基点にして考えることを言っている。使い手の立場で製作し,使い手に喜ばれる仕事の仕方をする。いわば,顧客満足度志向の考え方を持つ。
(7)は職人の思想である。製造に当たっては必要なものを必要なだけ作る。無理,無駄のない生産を行う,自然の道理,摂理に従ったエコロジカルな仕事の仕方をする。大地から生まれたものは大地に帰すという。
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現代の職人を考える〜新職人論〜 2020/09
職人について調べてみると、これが職人の定義なのか?と思うことがある。
このような古いイメージの職人は現代社会では少ないのである。
現代の職人とは何か、街中にも工場にも、もっと広げて言えばものづくり以外にも職人はいる。
ここでは現代に合わせて職人を描いてみよう。
森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号
職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996
※こちらもご覧ください
2020年8月21日発売
「実践 現場の能力管理〜生産性が向上する人材育成マネジメント〜」
目次
まえがき
本書の概要と使い方
第1章 職場の課題と能力管理
第2章 能力管理とは何か,その範囲と機能
第3章 能力マップによる能力管理の方法
第4章 作業指導による能力管理の方法
第5章 能力管理の推進モデル
第6章 能力管理の実際(事例編)
A5版192頁、価格 2700円税別
■飛躍的な生産性向上を可能にする人材育成マネジメント手法「能力管理」を習得できる一冊!
組織の維持・発展には、組織のもつ優れた技術・技能を他者に伝えることが欠かせません。組織が生み出す製品・サービスの品質を担保するのは、最終的には一人ひとりの技術・技能だからです。
能力管理は、「保有する技能・技術を効果的な能力開発につなげることで、結果として個々人が能力を発揮できるような環境を整える」マネジメント手法です。かつては「誰に能力を管理する権限があるのだ?」と誤解され、ようやく使えるようになったのはつい最近のことです。
本書は、体系化されたマネジメント手法としての能力管理を具体的な事例をもとに解説しており、すぐに現場(会社)で役立てることができます。
日科技連出版社から、「実践 現場の能力管理」を2020年8月に発刊。
全国の書店、Amazon、楽天ブックス他で購入できます。
詳しくは日科技連出版社のホームページへ
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"Skilled Labor on High-Tech Age"
大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
・誰でも、いつでも読める電子書籍です
eBOOKのダウンロードは → こちら
Contents
1. Thinking about Skill and Technology
2. Clarifying the Science of Skill
3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
4. Skilled Work on High-Tech Age
5. High-Tech Skills and Original Skills
6. Technical Education on High-Tech Age
7. The Path to High Level Skill
8. Digital Task and Analog Task
9. Engineer Education and Skilled Worker Education
Reference
Message from author
「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」
「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
・誰でも、いつでも読める電子書籍です
eBOOKのダウンロードは → こちら
目 次
1 技能と技術を考える
2 技能の科学を明らかにすること
3 「技」が創る「知」の世界−酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
4 ハイテク時代の技能労働
5 ハイテク技能と原初技能
6 ハイテク時代の技能教育とその展望
7 高度熟練への道
8 デジタルタスクとアナログタスク
9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
あとがき
著者プロフィール
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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(?2006年3月)、徳島大学教授(?2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(?2000年3月)。学会活動は日本職業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。
基礎研究とプロダクツの関連
技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。
GINOUKEN Essential シリーズ(2020年版)は→こちら
技術・技能教育研究所の研究開発成果のバックナンバーから最新の成果までを収録
技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス、能力管理
←こちらも参照ください。
←※こちらもご覧ください
技術・技能伝承論文集
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2020年、セミナーを開催しています。
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