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 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 


職人の働き方と技能


森 和夫  技術・技能教育研究所


 

「職人に学ぶ−技の伝承と文化−」(2000) より転載





 職人とは何だろうか、国語辞典では職人は「伝統工芸や手工業的製造業の技能者。大工,左官,植木屋,仕立屋などのように,自分の身につけた技術で物を作ることを職業にしている人たちの総称。」とある。また,匠とは「手や道具を用いて作り出すことを生業とする人であり,職人と同義語にも用いる。」これらを見る限り,手わざを中心とした技能者であり,これによって生計を営む職業人,つまり,自らの生活を技によって支えている職業人をさして言うようである。生業(なりわい)として技が原点としてあり,その結果として技の成果をもたらすものである。






 職人の考え方の原点には「こだわり」がいつも見いだせる。いわば妥協しないことの意味,意義が見いだせる。例えば,素材へのこだわり,道具へのこだわり,機械に対するこだわりなどがこれである。一般に,ものづくりには必然的にこだわりが欠かせない。職人たちは最高・最良のものを目指すためにそれにふさわしいあり方を追及しているのである。
 筆者が経験した職人たちとの対談,職人の意見発表,仕事場でのインタビューをもとにして,仕事の仕方について整理してみると次のようになる。

 (1) 全工程の仕事を行う
 (2) 優れた実践展開力を持つ
 (3) 本質を理解する力がある
 (4) 仕事の創造を実践する
 (5) 経験ベースの能力保有・維持の仕方
 (6) ユーザオリエンテッドの考え方
 (7) 無理,無駄,ムラなくエコロジカル





 (1)の全工程仕事とは,受注から納品,設置までの全工程を行うことである。仕事の計画・企画から始まって準備・実行・検査を行い,引渡しまでを行う。これは作業の中枢部分ともいうべき企画・全体計画に関与し,評価も行う。ユーザとのコミュニケーションが行われ,評価結果をも収集できる。仕事の段取りが行えることは熟練職人の必須条件であるが,これは全工程仕事をすることで習得できるものだ。段取りには1時間計画,2工程計画,3道具・材料揃え,4人・物・場所などの手配,5情報の制御が含まれる。

 (2)は仕事に精通していることが基礎にあって,どのような困難さも理屈ではなく実践で乗り越えることだ。創意工夫で片づけてしまうのである。一見,不合理のように見えるが,その行動はきわめて合理的で,理にかなっている。職人は経験則から原則・規則を見いだしているといえる。機械・システムにかかわる技能の場合には技術的理解に基づいた経験則で構成されている。

 (3)は本質的理解である。作業を何回か経験すると,今,体験している作業がこれまでの経験のどの位置にあるかを推測するようになる。体験の増加で,作業の体系が構築される。体系を把握するところに本質理解が伴う。一度,本質の理解が行われるとこれを機軸に展開するようになるため,技能は一段と高速で良質なものへ進展する。初めて体験する仕事も,これまでの本質理解をもとに成功の確率の高い進め方を実行できるのである。

 (4)は仕事の創造である。過去に同じ体験,経験をしていても,現在の状況は常に新しい状況にある。表具師は,かつて使用していた紙が生産中止になった場合,今,入手できる紙の特性を把握し,その特性に合った方法で従来と同等以上の施工結果を得るという。これは世の中の状況が絶えず変化しているために創造的に仕事をせざるを得ないのである。職人はこれを求められ,これを実行する。

 (5)は職人技の形成は経験であり,経験値を基準に行動を組み立てている。経験が行動の規範となり,尺度となる。(5)はこれを指している。これらの保持の仕方はアナログ的に保有しており,状況や条件によって適宜,呼び出して実行していると考えられる。職人が自分の行動を記載したものはあまりない。メモに要点を書きとめることが多い。

 (6)では仕事の依頼者の満足を基点にして考えることを言っている。使い手の立場で製作し,使い手に喜ばれる仕事の仕方をする。いわば,顧客満足度志向の考え方を持つ。

 (7)は職人の思想である。製造に当たっては必要なものを必要なだけ作る。無理,無駄のない生産を行う,自然の道理,摂理に従ったエコロジカルな仕事の仕方をする。大地から生まれたものは大地に帰すという。








森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号






職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996





  

  




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