本文へジャンプ         本文へジャンプ        

 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 


現代の職人を考える〜新職人論〜




職人について調べてみると、これが職人の定義なのか?と思うことがある。
このような古いイメージの職人は現代社会では少ないのである。
現代の職人とは何か、街中にも工場にも、もっと広げて言えばものづくり以外にも職人はいる。
ここでは現代に合わせて職人を描いてみよう。

森 和夫  技術・技能教育研究所


職人はものづりだけか?と言う疑問はいつもある。昔のイメージでは職人について語れない。現代の職人はもっと違うのだ。とにかく、職人の定義が時代に追いついていないのだ。

従来の職人の条件について整理すると下記のようになる。
  @手仕事であること
  Aものづくり技能であること
  B熟練を伴うこと
  C一個生産方式の産業形態であること
  D生業として行うこと
 
疑問は下記のようになる。
  @手仕事であること→手仕事だけか?
  Aものづくり技能であること→ものづくりだけか、技能だけか?
  B熟練を伴うこと→熟練でない人は職人ではないのか?
  C一個生産方式の産業形態であること→量産の産業形態ではいないのか?
  D生業として行うこと→生業としてあることは絶対条件か?

職人の定義に含まれる要素に手作業というものがある。現代の職人たちは手作業でなくてもいる。設備の整った工場にも職人はいる。手作業ばかりで無く、機械による作業もあるのだ。手は使わず、頭を使ってものづくりする人もいる。まず手作業という要素を否定したい。

次にものづくりと言う要素がある。職人はものづくりだけか?農作業に職人はいないだろうか、同様に漁師に職人はいないのか。もっと拡大して、サービス労働に職人はいないのか。介護サービス、ベテラン看護師、レストランのホール係にも職人と呼んで良い人はいる。

職人は熟達した人か?必ずしも熟達した人ばかりでは無い。落語で登場する熊さん八さんも職人だ。正確に言うと職人気質(しょくにんかたぎ)のことかもしれない。しかし、ある程度はその技に優れていることは条件になる。一定の力量を持った人が職人と呼ばれることは自然なことだ。

一個生産方式の産業形態ばかりでなく、量産のスタイルの産業形態にも職人はいる。これまでにお会いした工場で働く職人さんと数多く面談してきた。工場によっては匠、親方・・と呼んでいる。

生業(なりわい)を営んでいることは職人の要件だろうか。それによって生計を営んでいることは大事である。しかし、アルバイト的に仕事をしている人にも、ボランティア的に生業としてではなく職人の人もいる。生業は必須の条件とは言えない。


おそらく、職人らしさには次の2点が決定づけていると考えられる。
 @職人性
 A職人気質
現代の職人を語るとき、大事なことは、働きの場所や労働形態、労働の種類ではなく職人性を持っているか否かである。職人気質は人によって異なるし、絶対条件ではない。ここでは職人性についてさらに深く検討してみたい。

職人性とは何か
職人が職人らしさを発揮するのは何だろうか。

第1はこだわりである。あるいは追究、探究、深めることに躊躇しないことだ。極めることが生きがいのような特性だ。自分が関わった仕事である以上、納得のいく仕事をしたいのである。職人達の達成感は満足のいく仕事をしたときである。そのように考えるとき、人は誰でも多かれ少なかれ、仕事をする以上、このような気持ちはある。しかし、職人はズバ抜けてこのようなことに固執するのである。あるときは家族・家庭を顧みずにこれに没頭する。並大抵のことではない。

第2は仕事の先にある顧客に向き合って仕事をすることだ。ものづくりであれば製作したモノがどのように使われるか、どのように顧客に受け止められるかを考える。サービスであれば相手のお客様がこのサービスによって心豊かになるか、心爽やかになるかが大事なことなのだ。職人は仕事を通じてその先にあるユーザーを注視している。その理由は明瞭だ。仕事の真の評価者はユーザーだからである。良い仕事をしたかどうかを判断する唯一の理解者はユーザーである。昔は「目利き」と呼んで大事にされたものだ。目利きは職人を育てるのである。親方よりも怖いのは顧客なのである。

第3は体験・経験を中心にした本質の捉え方にある。だからといって理論や原理が嫌いなのではない。必要性がないと考えるからだ。やがて必要なときが来れば原理に立ち戻ることができる。職人の日々は仕事の連続であり、多くの体験・経験を繰り返す。毎日が経験の連続だ。単純に繰り返しているようだが、よく見るとトライアンドエラーを繰り返している。「今日は快晴だから気温と共に材質はこう変化するだろう」「雨天の日には木材の含水量が変化しないので方法はこのようにしてもかまわない」・・・。これを何十年と繰り返していれば物事の理解・把握は自ずと鍛えられ、収斂する。このようにして本質というものが見えるようになるのだ。




つづく



----------------------------------------------------
人とは何だろうか、国語辞典では職人は「伝統工芸や手工業的製造業の技能者。大工,左官,植木屋,仕立屋などのように,自分の身につけた技術で物を作ることを職業にしている人たちの総称。」とある。また,匠とは「手や道具を用いて作り出すことを生業とする人であり,職人と同義語にも用いる。」これらを見る限り,手わざを中心とした技能者であり,これによって生計を営む職業人,つまり,自らの生活を技によって支えている職業人をさして言うようである。生業(なりわい)として技が原点としてあり,その結果として技の成果をもたらすものである。




森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号






職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996




2020年10月25日、「熟練技の特性と次世代への継承、育成における課題」を日本労働研究雑誌11月号、pp.74-84.2020 に掲載
日本労働研究雑誌 2020年11月号(No.724)  特集:スキルの継承・伝承
2020年10月23日 掲載

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/11/index.html

熟練技の特性と次世代への継承,育成における課題
森 和夫(技術・技能教育研究所)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/11/pdf/074-084.pdf





2020年8月21日発売
「実践 現場の能力管理〜生産性が向上する人材育成マネジメント〜」


  目次

  まえがき
  本書の概要と使い方
  第1章 職場の課題と能力管理
  第2章 能力管理とは何か,その範囲と機能
  第3章 能力マップによる能力管理の方法
  第4章 作業指導による能力管理の方法
  第5章 能力管理の推進モデル
  第6章 能力管理の実際(事例編)


   A5版192頁、価格 2700円税別


■飛躍的な生産性向上を可能にする人材育成マネジメント手法「能力管理」を習得できる一冊!

 組織の維持・発展には、組織のもつ優れた技術・技能を他者に伝えることが欠かせません。組織が生み出す製品・サービスの品質を担保するのは、最終的には一人ひとりの技術・技能だからです。
 能力管理は、「保有する技能・技術を効果的な能力開発につなげることで、結果として個々人が能力を発揮できるような環境を整える」マネジメント手法です。かつては「誰に能力を管理する権限があるのだ?」と誤解され、ようやく使えるようになったのはつい最近のことです。
 本書は、体系化されたマネジメント手法としての能力管理を具体的な事例をもとに解説しており、すぐに現場(会社)で役立てることができます。


 日科技連出版社から、「実践 現場の能力管理」を2020年8月に発刊。
 全国の書店、Amazon楽天ブックス他で購入できます。
 詳しくは日科技連出版社のホームページ
 


----------------------------------------------------

  


  


  


  



------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


   "Skilled Labor on High-Tech Age"

  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら 

 Contents
 1. Thinking about Skill and Technology
 2. Clarifying the Science of Skill
 3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
 4. Skilled Work on High-Tech Age
 5. High-Tech Skills and Original Skills
 6. Technical Education on High-Tech Age
 7. The Path to High Level Skill
 8. Digital Task and Analog Task
 9. Engineer Education and Skilled Worker Education
 Reference
 Message from author

 

  
「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」

  「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら
 

 目 次
 1 技能と技術を考える
 2 技能の科学を明らかにすること
 3 「技」が創る「知」の世界−酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
 4 ハイテク時代の技能労働
 5 ハイテク技能と原初技能
 6 ハイテク時代の技能教育とその展望
 7 高度熟練への道
 8 デジタルタスクとアナログタスク
 9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
 あとがき
 著者プロフィール

  



----------------------------------------------------

※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(-2006年3月)、徳島大学教授(-2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(-2000年3月)。学会活動は日本職業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。

基礎研究とプロダクツの関連
 技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。







GINOUKEN Essential シリーズ(2020年版)は→こちら
技術・技能教育研究所の研究開発成果のバックナンバーから最新の成果までを収録
技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス、能力管理




    ←こちらも参照ください。

  




←※こちらもご覧ください



技術・技能伝承論文集


----------------------------------------------------------------------------------------------------




暗黙知指導の理論と実際セミナー




能力把握に基づく人材育成の方法セミナー


能力マップ作成講座