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 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 



キーワード解説 「技術者とは何か」




森 和夫
 技術・技能教育研究所




 「技能者とは何か」について考えて見よう。技術者になるにはまず技術者の仕事を理解しなければならない。一般的には技術者を同一のイメージでとらえているが、技術者の種類は多い。技術者の種類によって仕事内容は異なる。例えば、開発技術者と生産技術者では全く内容が違う。漠然と技術者になりたいと言ってもいろいろな種類の技術者がいる。
ものづくり系の技術者には次のような種類があることに気づく。
 開発技術者
 設計技術者
 メンテナンス技術者
 生産技術者
 製造技術者

技術者とは「目的達成のための方法・手段を工夫して、よりよい成果をもたらす人」と仮に定義しよう。
当然、技術内容をよく知り、それらを駆使して実行する。具体的には科学・技術の知識を背景に行う。
 
 技術者は問題解決型の仕事をする。したがって工夫や創作なども含まれる。「今ある状況をもっと能率的にできないか」「もっとミスやエラーの出ない作業方法はないか」「ユーザーに喜んでもらえる商品は何か」「品質を向上させるにはどうすれば良いか」などが日々の仕事となる。共通して言えることは、目的を達成させるための方法・手段を工夫してよりよい成果をもたらすように仕事をしているのだ。

 技術者と技能者の違いについて見ると、技術者は創造的・開発的な仕事を行い、技能者は繰り返し作業で仕事をすると言うがこれは一面しかとらえていない。技能者にも創造的・開発的な仕事の連続の人もいる。最近は技術者と技能者の境目がなくなりつつある。企業によっては区別しないで、技術・技能の両方を扱える人を技術者と呼ぶ。創造的・開発的な仕事には実際のものづくり作業が欠かせないことから技術者とはいっても自ら技能者と同じ仕事をすることがある。技術職と技能職という人事上の分け方をしている企業もある。

 技術者の内容は企業によって違う。大企業ほど技術者の仕事は多様化し、分業化している。中小企業の場合には技術者の仕事は分業化はしていない。かつて、大きな自動車製造工場に調査に入ったことがある。そこにいる数千人の技術者は多様な仕事をしていた。そこにはさまざまな種類の技術者が働いていた。同様にして巨大な造船所、航空機製造工場、製鉄所でみたものも同様であった。技術・技能の種類が多いばかりでなく、仕事の仕方についても多くの種類があることがわかった。一言で技術者といっても、それだけでは表せないバックグラウンドがそこにはある。


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technology は科学技術を指していて、必ずしも技術だけではない。だから technologist は科学技術者となる。
科学と技術は内容が全く異なるもので、同一に扱うことはできない。科学・技術と記載すべきだろう。
私たちは科学、技術、技能の3つを同時に扱うことで物事が理解しやすく、判断も、指導も容易になると考えている。
技術者について調べてみると technologistの他に engineer あるいは technician がある。
技能者は skill person がある。この用語では後で述べるが、技能を狭くとらえる人々には誤って伝わる。

technique は技術、技巧、テクニック、技法、手法、腕前、手腕、技量などの意味が含まれている。
technician は専門家、技術者、技巧に優れた人がある。

artisan は職人、工匠と用いられる。
art は広いエリアを指していてもともとは自然に対する人間の行為や活動に注目した言葉だ。
技術も技能も包含する。
人工、人為、美術 、芸術論、美術品、一般教育、人文科学、技術、技巧、技、術、手仕事、能力、技能
artist は芸術家、画家、彫刻家、名人、達人などに用いる。これも技術者の呼称には向かない。

技術は art, craft ,science, technique がある。
技能は acquirement, art, craft, skill がある。

これらから技術者とは「科学・技術を活用して人間社会に有益な成果をもたらす人」であると言える。
技術・技能とは skill & technology を使用してきた。
技能だけを説明するときには skill & technique を使用している。途上国では技能を単純な繰り返し、習慣化されたものととらえる国もあり、このように説明している。
強いて言えば、技術者は technologist であろう。
これが最も内容を伝えることができるからである。

※参考 --------------「大学における実践的な技術者教育のあり方(案)」
国際的には、技術を担う人材として、十分に特定された技術問題に対処し経験的な実務能力が求められるTechnician、広範に特定された技術問題に対処するTechnologist、設計・開発・監督など複合的な技術問題に対処するEngineerの3つの区分が存在している。・・・中略・・・本報告書において、上記を踏まえ、「技術者」は、国際的にEngineerとして通用するものとして、「数学、自然科学の知識を用いて、公衆の健康・安全への考慮、文化的、社会的及び環境的な考慮を行い、人類のために創造、開発又は解決の活動を担う専門的職業人」と定義する。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/41/041_1/attach/1291662.htm
大学における実践的な技術者教育のあり方に関する協力者会議   (文部科学省 高等教育局専門教育課 科学・技術教育係、平成22年03月)


 技術者とは「科学・技術を活用して人間社会に有益な成果をもたらす人」であると定義すると、現在流通している技術者概念は工学系に偏っているようだ。これらの人々を工業技術者と呼ぶことにしよう。
工業技術者は engineer と言って良い。
国語辞典などで見ると工学を前提にした定義が書かれている。これは正しいことだろうか?

「大学における実践的な技術者教育のあり方(案)」においても扱われていないのである。現在の技術者教育ではサービス労働とものづくり労働の間に線引きがされていると考えられる。「数学、自然科学の知識を用いて・・」というところを見ると工学系技術者教育のあり方を論じていたものと判断できる。

看護においても、調理においても科学・技術を活用して人間社会に有益な成果をもたらす人はいる。美容技術、介護技術、看護技術、調理技術と言う言葉がありながら、技術者とは呼ばない。かつて看護大学で「技術教育」を担当していたことがある。看護界には技術者が不在であればこのような科目は開講しないはずである。看護教育に長年携わっている方々と技術教育について語ったことがあるが、看護技術者と呼ばないのかと尋ねると明瞭な回答は示されなかった。おそらく、看護技術者の概念ができる以前に工業技術者が存在していたからではなかろうか。

技術・技能教育は「いわゆる技術者教育」とは異なり、技術・技能を取り扱う全ての人々の教育を指している。
世の多くの人々が技術者の概念を再検討すべきと考えたい。


つづく




現代の職人を考える〜新職人論〜 2020/09

職人について調べてみると、これが職人の定義なのか?と思うことがある。
このような古いイメージの職人は現代社会では少ないのである。
現代の職人とは何か、街中にも工場にも、もっと広げて言えばものづくり以外にも職人はいる。
ここでは現代に合わせて職人を描いてみよう。

















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2018/3/20 大妻女子大学人間生活文化研究所から出版し公開しました。誰でもダウンロードして、無料で読むことができます。
森 和夫「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」


   "Skilled Labor on High-Tech Age"

  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら 

 Contents
 1. Thinking about Skill and Technology
 2. Clarifying the Science of Skill
 3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
 4. Skilled Work on High-Tech Age
 5. High-Tech Skills and Original Skills
 6. Technical Education on High-Tech Age
 7. The Path to High Level Skill
 8. Digital Task and Analog Task
 9. Engineer Education and Skilled Worker Education
 Reference
 Message from author

 

  
「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」

  「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら
 

 目 次
 1 技能と技術を考える
 2 技能の科学を明らかにすること
 3 「技」が創る「知」の世界−酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
 4 ハイテク時代の技能労働
 5 ハイテク技能と原初技能
 6 ハイテク時代の技能教育とその展望
 7 高度熟練への道
 8 デジタルタスクとアナログタスク
 9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
 あとがき
 著者プロフィール

  

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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(?2006年3月)、徳島大学教授(?2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(?2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。

基礎研究とプロダクツの関連
 技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。



※「技術と技能に関する93人の定義」はこちらで閲覧できます。

https://www.tetras.uitec.jeed.or.jp/files/data/199602/19960215/19960215_main0.html




・・生産を支えるのはいうまでもなく,技術,技能,そして科学である。須藤は「辞書からみた技術と技能」の中で20種類の国語辞典等を調べた結果について述べている1)。この論文では技術は「技の表現」,技能を「技の実行」という対比でとらえることができると結んでいる。確かにこのような記述を認めるにしても,この両面で述べるというのはいかにも国語辞書らしい。なぜなら,私たちの身の回りの具体的な製造の姿に照らして考えると,欠落している内容を多く見いだすことができるからである。私はこの欠落している側面を明らかにして,さらに納得のいく「技術」と「技能」の内容に迫りたいと考えていた。1995年11月,日本の代表的な製造業の地域である愛知県に私は向かった。ポリテクセンター中部で開催される講演「最近の技術・技能とその伝承を考える」が予定されていたからである。私は1つの企てをもって講演に臨んでいた。・・

「技術」と「技能」に関する93人の定義」PDFは→こちら









須藤秀樹「辞書からみた「技術」と「技能」」はこちらで閲覧できます。
https://www.tetras.uitec.jeed.or.jp/files/data/199501/19950113/19950113_main0.html




 ←こちらも参照ください。


森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号






職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996




GINOUKEN Essential シリーズ(2021年版)は→こちら
技術・技能教育研究所の研究開発成果のバックナンバーから最新の成果までを収録
技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス




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技術・技能伝承論文集