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キーワード解説
「技術と技能の違い」

森 和夫  技術・技能教育研究所

                        「技術・技能伝承ハンドブック」「技術・技能論」より転載、追補した

技能とは何か
「技能とは何か」と言う問いに答えていこう。「技能は能力」であると答えたい。「技能とは人間がもつ技に関する能力であり、それを使って仕事などを行う行為」を指している。能力は人に備わっていて、直接見ることはできない。見えるのは作業している状態か、作業の結果である。ビデオで記録しても所詮、映像と音声にすぎない。これは平面的でしかも時間で流れる。しかし技術は記録できる。技術は技を記録したり、伝えるように何かに置き換えられたものを指している。時には数式であったり、図面であったり、文章であったりする。「科学を人間の生活に役立てるように工夫したもの」と言う意味を含んで使う場合もある。技術とはやり方、方法、手段を表している。技能は人間の行為・能力を表し、技術はやがて知識となるものと言える。

 一般に技能は主観的なものだといわれる。技能者自身がもっているものであるし、自分の特性に合わせて経験で築き上げたものなのである。技術との違いは歴然としている。技術はもともとが「記述や表現や伝達」を意図している。だから、技術の流通の速度は技能と比べて格段に速い。技術は記述し、記録され、蓄積できる。そして、技術は人の外に出て流通する。
 技能は人に宿っている。だから人以外は蓄積できないし、人が死を迎えれば技能は消える。人がいて伝承さえすれば継承され維持できる。人が継承しなければ技能は維持できないのである。その点、技術は人に関係なく技術であり続ける。このように技術は「能力でない」と言うことが決定的な違いをもたらしていると言えよう。技能は能力であるがために、独自の世界を作り上げているのである。

人間は技能を発展させようとするとき、さまざまな工夫をすると共に全身全霊を傾けるようになる。これは熟練の極致に至るときに見出せる。技を発揮するとき、人の内にあるものすべてを使って行うので、人は自分の能力以外のものを使用しない訳にはいかない。だから、技に優れることは人として優れることと無関係ではあり得ないのである。このように人の成長と技能の発展とは密接な関係があると言える。


技能と技術の違いを整理する
 技能は一般に「経験的に身に付くもの」とか、「伝えられないことが多い」と言う。技能は人間が作り出したものである。これを手がかりに考えると、見えてくることも多い。自然が作り出したものではないのである。国語辞典で「技」を調べると、「技術」の内容と「技能」の内容が含まれていた。かつては「技」という言葉しかなかったために、両者は同一の言葉の中に封じ込められていたのである。やがてこの言葉は2つの内容に分化する。技のうち人の働きや動きに着目した内容を「技能」として行為・能力を表わした。技の表現・伝達・置き換えに着目した内容を「技術」として方法・手段を表わした。もともと技能は実体や具体を表わしたものであり、技術は表現や抽象を表わしている。



 技術と技能のこの違いは技の伝播・流通に決定的な違いを見せる。技を伝達するために生まれた技術は、論文やメモや機械などによって多くの人々に伝達できる。技から離れて客観的なものによって伝達されるため、目で見て再現することが可能である。インターネットで情報のやり取りをする今日、その伝播の速度はきわめて速い。このように、技術は流通が容易である。これに対して、技能は目で見て伝達できないばかりか、伝達の可能性すらもないように見える。人間を介在させて伝承すると言うことから、人がいなければ伝達は難しい。最近ではビデオがあるからそうとは言えないと思うかもしれない。単に映像を収録しただけでは肝心のカン・コツはさっぱりわからない。ビデオはカン・コツを明らかにするツールとして役立つが、明確な意図をもって収録しないと伝えることは難しい。このように流通は困難なのである。



 技能は人間と一心同体、密接不離と言える。したがって、技能は技能者の死と共に消える。また、技能が育つと人間も育つ。逆に人間が育つと技能も育つということができる。技能は伝承がなければ消えるのである。技能というものは伝承によってのみ受け継ぐことが可能になる。そういった特性が技能にはある。
 技術は人間の外にあり、技能は人間の内なるものとしてある。伝達を目的として生み出された「技術」は客観的に表現され記述できる。したがってその流通性は高く、その汎用性は優れている。 これに対して「技能」はきわめて個別的で主体的なものである。人が違えば技能も違うのだ。人が体験や経験を通して学ばないと習得できないという側面をもっている。このような意味で技能は特殊化されており、誰もが同じというようなことはない。したがって技能の流通は困難なものになる。





 さて、技能と技術の根本的な違いはどこにあるかについて検討を進めてきた。最近は技術革新によって多くの影響を受けているが、技能もこの外にはいられない。その内容に大きな変化が見られるのだ。

 最近の技能の特徴はどのようになつているだろうか。かつての技能では最近の技能はこと足りなくなってきている。モノづくり労働を始めとしてサービス労働においても、多くの機械やシステムが導入されることになった。この結果、技能者はそれらの機械やシステムを扱わなければならなくなった。もともと機械やシステムは多種多様な技術が挿入されている。したがって、技能者は技術を理解しなければそれらの機械を駆使できないのである。[技能A]ばかりでなく[技能B]を必要としている。この[技能B]は機械やシステムに挿入された技術がわからなければ操作できない。では[技能A]は不要になったかというとそうではない。これも必要なのである。このように技能者に求められる技能は[技能A+技能B]ということになった。つまり技術を理解した、こなれた技能の持ち主を必要とするようになったのである。ますます技能者と技術者の垣根が不明確になってきたと言わざるを得ない。技能者のための教育訓練の量は飛躍的に拡大したのである。これらの状況に応えつつ新しい展開を図っていかなければならない。



技術と技能と科学
技を表現した方法・手段は科学によって明らかにされるが、技の動きや働きもまた科学によって裏打ちされる。科学というと難しく思う方もいるが、物事の道理や法則性、規則性のことと考えればよい。同じ「技」から出ていることがらの一方が科学的裏付けがあり、他方がないということはとうてい考えられない。技術が科学の助けを借りて拡大・発展したように、我々は技能についてもその力を大いに利用し、その本領を発揮しなければならない。



 技能は人間がもっているものであるから、当然ながら「人間の科学」が必要となる。例えば人間の行動、動作は人間科学に含まれる。技術における科学の主な内容は「自然科学」にあるのに対して、技能におけるそれは「自然科学と人間科学の両方」を含むことになる。






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■下記のネット記事は当ホームページの無断転載記事です。
頭の整理 ひょんなことから国立大学助教授になった加藤雄一郎の奮闘記
https://procompromise52.rssing.com/chan-23390662/all_p163.html

加藤雄一郎 名古屋工業大学 産学官金連携機構 プロジェクト教授、株式会社ブランドデザイン 代表取締役、株式会社安川電機 社外取締役
 





こちらもご覧ください。
カンは「勘」と書く。
「感覚や感じ方、捉え方」をいう。
重要な感覚、感じ方、捉え方のことだ。
「勘」と類義語の「直感」には「推理・考察などによらず、感覚的に物事を瞬時に感じとること」とある。
このようにある事象を前にして・・・・・・・



 こちらも参照ください。

職人の考え方の原点には「こだわり」がいつも見いだせる。いわば妥協しないことの意味,意義が見いだせる。例えば,素材へのこだわり,道具へのこだわり,機械に対するこだわりなどがこれである。一般に,ものづくりには必然的にこだわりが欠かせない。職人たちは最高・最良のものを目指すためにそれにふさわしいあり方を追及しているのである。
 筆者が経験した職人たちとの対談,職人の意見発表,仕事場でのインタビューをもとにして,仕事の仕方について整理してみると次のようになる。・・・・・


現代の職人を考える~新職人論~ 2020/09

職人について調べてみると、これが職人の定義なのか?と思うことがある。
このような古いイメージの職人は現代社会では少ないのである。
現代の職人とは何か、街中にも工場にも、もっと広げて言えばものづくり以外にも職人はいる。
ここでは現代に合わせて職人を描いてみよう。














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2020年8月21日発売
「実践 現場の能力管理~生産性が向上する人材育成マネジメント~」


  目次

  まえがき
  本書の概要と使い方
  第1章 職場の課題と能力管理
  第2章 能力管理とは何か,その範囲と機能
  第3章 能力マップによる能力管理の方法
  第4章 作業指導による能力管理の方法
  第5章 能力管理の推進モデル
  第6章 能力管理の実際(事例編)

   A5版192頁、価格 2700円税別


■飛躍的な生産性向上を可能にする人材育成マネジメント手法「能力管理」を習得できる一冊!

 組織の維持・発展には、組織のもつ優れた技術・技能を他者に伝えることが欠かせません。組織が生み出す製品・サービスの品質を担保するのは、最終的には一人ひとりの技術・技能だからです。
 能力管理は、「保有する技能・技術を効果的な能力開発につなげることで、結果として個々人が能力を発揮できるような環境を整える」マネジメント手法です。かつては「誰に能力を管理する権限があるのだ?」と誤解され、ようやく使えるようになったのはつい最近のことです。
 本書は、体系化されたマネジメント手法としての能力管理を具体的な事例をもとに解説しており、すぐに現場(会社)で役立てることができます。

 日科技連出版社から、「実践 現場の能力管理」を2020年8月に発刊。
 全国の書店、Amazon楽天ブックス他で購入できます。
 詳しくは日科技連出版社のホームページ
 


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2018/3/20 大妻女子大学人間生活文化研究所から出版し公開しました。誰でもダウンロードして、読むことができます。無料です。
森 和夫「技術・技能論-技術・技能の変化と教育訓練-」



  
「技術・技能論-技術・技能の変化と教育訓練-」

  「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら
 

 目 次
 1 技能と技術を考える
 2 技能の科学を明らかにすること
 3 「技」が創る「知」の世界-酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
 4 ハイテク時代の技能労働
 5 ハイテク技能と原初技能
 6 ハイテク時代の技能教育とその展望
 7 高度熟練への道
 8 デジタルタスクとアナログタスク
 9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
 あとがき
 著者プロフィール


  

   "Skilled Labor on High-Tech Age"

  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら 

 Contents
 1. Thinking about Skill and Technology
 2. Clarifying the Science of Skill
 3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
 4. Skilled Work on High-Tech Age
 5. High-Tech Skills and Original Skills
 6. Technical Education on High-Tech Age
 7. The Path to High Level Skill
 8. Digital Task and Analog Task
 9. Engineer Education and Skilled Worker Education
 Reference
 Message from author

 

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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(〜2006年3月)、徳島大学教授(〜2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(〜2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。

基礎研究とプロダクツの関連
 技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。



※「技術と技能に関する93人の定義」はこちらで閲覧できます。

https://www.tetras.uitec.jeed.or.jp/files/data/199602/19960215/19960215_main0.html




・・生産を支えるのはいうまでもなく,技術,技能,そして科学である。須藤は「辞書からみた技術と技能」の中で20種類の国語辞典等を調べた結果について述べている1)。この論文では技術は「技の表現」,技能を「技の実行」という対比でとらえることができると結んでいる。確かにこのような記述を認めるにしても,この両面で述べるというのはいかにも国語辞書らしい。なぜなら,私たちの身の回りの具体的な製造の姿に照らして考えると,欠落している内容を多く見いだすことができるからである。私はこの欠落している側面を明らかにして,さらに納得のいく「技術」と「技能」の内容に迫りたいと考えていた。1995年11月,日本の代表的な製造業の地域である愛知県に私は向かった。ポリテクセンター中部で開催される講演「最近の技術・技能とその伝承を考える」が予定されていたからである。私は1つの企てをもって講演に臨んでいた。・・

「技術」と「技能」に関する93人の定義」PDFは→こちら









須藤秀樹「辞書からみた「技術」と「技能」」はこちらで閲覧できます。
https://www.tetras.uitec.jeed.or.jp/files/data/199501/19950113/19950113_main0.html




森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号



 


職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996




GINOUKEN Essential シリーズ(2022年版)
技術・技能教育研究所の研究開発成果のバックナンバーから最新の成果までを収録
技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス




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