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 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 



キーワード解説

技術・技能伝承とは何か

森 和夫




 「技術・技能伝承」を言葉だけで考えると、「技術・技能を伝承すること」である。言い換えると、今ある技術・技能を後継者に伝えることを意味している。これで十分であろうか。「技術・技能伝承」という言葉はもっと広い意味を包含していると指摘できる。そのことは「技術・技能」の意味、役割、働き、発展、さらには人間と技能の関わりを考える時、明瞭に見えてくる。この内容を検討してみよう。



■技術・技能伝承は企業発展の礎である
  企業にとって人材がいかに大切であるかはよく言われることである。技術・技能伝承は人材育成の一つのスタイルである。にもかかわらず、技術・技能伝承は人材育成のように重視されることは少ない。「現場に任せておけばよい」という言葉はこれを表している。技術・技能伝承を現場に任せておくような姿勢では決してうまくはゆかないだろう。失敗を前提にした取り組みを強いるようなものである。これまでの技術・技能伝承の実例を調べるまでもないことだ。技術・技能伝承は会社の経営の問題でもあるのである。技術・技能伝承に成功する企業の多くは経営者が仕組みとしての技術・技能伝承を推進している。なぜなら、技術・技能伝承は企業の発展の礎であるからだ。



■人材育成は見える化によって、パフォーマンスが飛躍的に向上する
 人材育成は一般に、効果・成果が見えにくいために実態がつかめないものだ。この計画で良いか、目標は確かなものか、指導方法は良いかなど不確かな状況で展開していることが多い。したがって、指導する側も受ける側もモチベーションが上がらないのである。だから、人材育成は見える化することでより良く展開できる。例えば、人材の能力マップを作り、職場の弱み強み、職場の問題を把握した上で目標設定をして、到達度を検証することがよい。このように、人材育成は見える化することでパフォーマンスは飛躍的に向上できる。



■技術も技能も一体として扱うことで開発力が高まる
 技術と技能は本来、未分化なものであるが、量産の効率を考えて分離した経緯がある。確かにこれで多くのコストダウンを果たした。しかし、どこからが技能で、どこからが技術という明確な垣根が存在するのでなく、連続体なのである。まして、技術者と技能者の垣根は同様のことだ。量産の発想には好都合だが、量産を離れた部署、とりわけ研究開発にあっては不都合なものととらえたい。研究開発力は技術と技能を一体化して扱うことで多くの利益をもたらす。ある場面では技能的に見たり、技術的に検討したりする。このように考えることで、技術・技能伝承は多くの創造的かつ創作の領域に踏み込むことが躊躇なく行えるのである。



技術・技能伝承は企業の固有技術・技能を明瞭化すること 
 企業活動の根幹は、他企業との差別化をもたらす固有の技術・技能にある。固有技術・技能であればこそ技術・技能伝承の対象となるのだ。アウトソーシングせず、自社で必要な技術・技能を温存し発展させなければならない内容である。この内容は多くの場合、個人に宿っている場合が多い。他者に伝えようとすると多くの困難がある。特に暗黙知が介在していると伝承は思うように進まない。だから、固有技術・技能の内容と所在を明確にし、指導可能なように整理することが大切である。暗黙知を明確にする作業は簡単ではないが可能である。暗黙知は1つではなくいくつかの種類があり、その特性も異なる。だから、技術・技能伝承が対象とする暗黙知の特性を見極めて、明らかにし、その技術的背景、原理、判断などを明らかにする必要がある。



技術・技能伝承は、次代の技術・技能を創造すること
 技術・技能伝承は古くから有る技術・技能をそのまま伝承することではない。伝承という言葉自体が古めかしく、誤解の原因となっているようだ。扱う技術・技能は時代によって変化している。例えば、新しい材料を使用すればそこで技術・技能は変化する。測定器が変わり、道具・工具・設備が導入されれば、技術・技能も影響を受ける。まして、ユーザーニーズが変われば新しい技術・技能が生まれる。「今ある技術・技能を伝える」ことよりも、「今ある技術・技能を現代化し、状況に合わせた技術・技能」へと変化しなければならないことは多い。技術・技能に含まれる暗黙知を明確化し、背景にある原理原則、科学を明らかにして今日の時代に合った現代的な技術・技能にリファインすることが大事になる。これはとりもなおさず、次代の技術・技能を創造することに連なっている。技術・技能伝承とは技術・技能創造でもある。



技術・技能伝承は指導者を越える後継者を育てること
 能率的に技術・技能を伝承することがいつも求められている。これまでの技術・技能をできるだけ短時間で習得させて、生まれた時間を技術・技能創造に投入すべきである。ベテランと同じ年月を技能習得に費やしていたのでは技術・技能創造の時間は無くなってしまう。次代の指導者は今いる指導者を越える指導者とならなければならない。自らを越えていく後継者生み出すのである。技術・技能伝承とは指導者を越える後継者を育てることだ。







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お知らせ
2018/3/20 大妻女子大学人間生活文化研究所から出版し公開しました。
森 和夫「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」


   "Skilled Labor on High-Tech Age"

  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2017/07/18 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら 

 Contents
 1. Thinking about Skill and Technology
 2. Clarifying the Science of Skill
 3. The World of “Wisdom” which “Technique” creates
 4. Skilled Work on High-Tech Age
 5. High-Tech Skills and Original Skills
 6. Technical Education on High-Tech Age
 7. The Path to High Level Skill
 8. Digital Task and Analog Task
 9. Engineer Education and Skilled Worker Education
 Reference
 Message from author

 

  
「技術・技能論−技術・技能の変化と教育訓練−」

  「ハイテク時代の技能労働」に加筆し、発刊。
  大妻女子大学人間生活文化研究所から出版 ( 2018/03/20 )
  ・誰でも、いつでも読める電子書籍です
  eBOOKのダウンロードは → こちら
 

 目 次
 1 技能と技術を考える
 2 技能の科学を明らかにすること
 3 「技」が創る「知」の世界−酒造りの技能の伝承と機械化をめぐって
 4 ハイテク時代の技能労働
 5 ハイテク技能と原初技能
 6 ハイテク時代の技能教育とその展望
 7 高度熟練への道
 8 デジタルタスクとアナログタスク
 9 技術者教育と技能者教育の狭間を考える
 あとがき
 著者プロフィール

  


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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役。
主な経歴は東京農工大学教授(?2006年3月)、徳島大学教授(?2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(?2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。


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  ←こちらも参照ください。

  





森和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」技能と技術誌 6/2006号






職人復権・次世代モノづくり塾 資生堂イベントグループ、パンフレット、1996






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暗黙知指導の理論と実際セミナー、募集中


技術・技能伝承の中核テーマ


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森和夫・河村泉 著
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