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 技術・技能教育研究所・森 和夫ホームページ 







技術・技能伝承は人を育てること




森 和夫  技術・技能教育研究所



■「技術・技能伝承は人を育てること」配布資料 → 






技術・技能伝承を考える理由
〇「技術・技能伝承は人を育てること」という当たり前のことについて考えてみよう。なぜ、改めて考えなければならないかには、理由がある。
〇「技術・技能伝承はマニュアルを作ることだ」とか、「良い技能マニュアルがあれば伝承は進む」など、一見、正しいように見えるがそうではないことを示す必要があると感じたからである。
私たちは、一見もっともらしいものに惑わされることなく人を育てることをしなければならない。




技術・技能伝承は人を育てること
〇技術・技能伝承は優れた技術・技能を後継者に指導して結果を出すことである。人が育って初めて技術・技能伝承が行われたと言える。どんなに優れた技能マニュアルがあったとしても、人が育っていないのでは技術・技能伝承とは呼べない。
〇技術者は往々にして、技能マニュアルに注力する。熱心に取り組むことはよいが、そこで燃え尽きてしまうケースも多い。マニュアルができたことで満足してしまい、「伝承すべきことはマニュアルに表現した」と言って終えてしまうのである。これでは技術・技能伝承が行われたとは言えない。
〇一方、技能マニュアルを作るソフトウエアや、マニュアル作りのノウハウなどを提供するコンサルテーションがあるが、これは技能伝承の準備段階のみを提供しているに過ぎない。大事なことはこれを生かす学習プログラムがあって、実行することである。残念ながらこの部分が手薄で、効果を挙げられない例は多くある。




〇技能マニュアルを作成する上で肝となる部分は技能分析であり、暗黙知をいかに表現するかにある。この質がマニュアルの質になる。いかに美しい映像技術を持っていても、技能分析に失敗している場合には、技能伝承にとって何の意味もないことである。
〇技能伝承の核心部分はベテランの自覚していない暗黙知をいかに引き出し、その情報を整理して見せるかにある。
〇この有力な手段として私たちは「暗黙知インタビュー」という方法論を提案している。このインタビューのポイントはある程度つかめるのだが、不完全な場合が多い。それをカバーするのは何かと自問自答してみると、作業の合理性、科学性、動作の自然さ、予防的対応など、多くの要因が見いだせる。これらを臨機応変に嗅ぎ取って明らかにすることがよい。この境地はインタビュアーが経験の集積の後にやってくる一歩突き抜けた感覚としてあるように思う。




〇技術・技能伝承はベテランの技能をそのまま受け継ぐことではない。ベテランの技術・技能を現代的に置き換えて合理的に受け継ぐことだ。
〇ベテランの行う技術・技能は必ずしも、合理的で妥当な方法とは言えない。その作業方法について審議し、時には妥当な方法として改めた後に伝承することである。
〇今ある技術・技能を現代的に置き換え、合理的な方法として整理し、次代の技術・技能として役立つようにアレンジすることを「技術・技能の創造」と呼ぶことにしよう。技術・技能伝承とはこのことを指している。
〇ベテランというのは、長い期間その技能に接し、問題解決を迫られ、対応を工夫した後に、あるやり方を確立もしくは、やり方を見いだす。いわば経験知の集大成でもある。それはその人の全てでもある。一方、後継者はそれをどのように受け止めるかという構えがないところに伝承はあり得ない。主体的な判断と選択眼をもってこれに対処すべきである。




〇技術・技能伝承を効果的にするのは学習プログラムにある。いかに技能分析や、技能マニュアルが精緻に仕上がっていたとしても、それは現状をドキュメントや映像で押さえたに過ぎない。あくまでも、それを生かすのは学習プログラムである。
〇そのマニュアルを見て自学自習することで、ある程度進歩は期待できるが、飛躍的な進歩はあり得ない。これは学習することへの理解が不十分と言わざるを得ない。
〇「訓練時間が従来の50%になった」という成果があったとすれば、そこにはさまざまな工夫を入れて達成したものと推測できる。人が学習するには原理があり、これを駆使して初めて到達できる。
〇暗黙知を徹底的に明瞭にしようとすると、膨大な労力と時間を要する。私は一定の成果が得られたら、伝承の学習プログラムに注力することの方が正解であると考えている。2年、3年の歳月を費やして暗黙知を研究したとしても人は育たないのである。




〇技術・技能伝承のプロセスにおいて、どの部分に力を投入すべきかが重要な判断となる。7割、8割の暗黙知明確化が進んでいれば、最後の詰めに時間を費やすよりも、学習プログラムの工夫と学習を助ける仕掛けに時間を投入することが良い。
〇学習プログラムの例を挙げてみよう。後継者養成の初期はSJTによって、一定の力量まで高めることができる。この後に実作業での経験が役立つので、OJTで教育する。再びSJTもしくはOff-JTで行い中期を過ごす。さらに後期は高度な熟練の学習となるため、OJTを主軸に展開させることにしたい。もちろん、ケースによってこのプロセスは異なる。しかし、ベストの方法は必ずある。
〇学習プログラムというものは、技能マニュアルのどこを詳しく、どこを浅く学習することが良いかを示してくれる。また、効率的な訓練時間のかけ方も示してくれる。さらに効果的な学習順序をも示すものである。








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