問題提起
「技能伝承マニュアル作成のアウトソーシングで技術・技能継承問題は解決できるか」
森 和夫 技術・技能教育研究所
最近、多くの企業で技能継承問題が認知され、活動も活発になってきている。特に、注目されているのは「職場の能力マップによる現状の把握」と「技能伝承マニュアルによる継承ツールの作成」である。後者についてみると、作成を外注する方法で乗り切ろうとする企業もある。これは3つの点で問題を残すように思う。第1は企業で重要な固有技能をアウトソーシングした会社が代行してマニュアル作成することの弊害である。第2は常に変化する時代にあって固有技能を見直す高度技能の維持・持続性の問題である。第3は作成したマニュアルは改訂され、常に活用され続けることで意義があるのだが、その力量が社内に温存されないことである。
今日、マニュアルづくりのビジネスが多く存在するようになった。ある意味で技能継承への支援ビジネスが認知されるようになったとも言える。しかし、依然として「暗黙知を形式知に変換する部分」が相変わらず弱いようである。基本的には暗黙知インタビューの方法が不十分に他ならない。これは技術・技能をデジタル化することとは違う。内部人材の養成が念頭にあれば、マニュアル作りをはじめとする技術・技能伝承活動が即人材育成になることは容易に気がつくはずだ。
このように考えると、アウトソーシングという解決方法自体に誤りがあると言わざるを得ない。多忙だから、人手が足りないから、時間が割けないからといって、内部人材養成を先送りにしてアウトソーシングでカバーする方法は多くの問題を残す。技術・技能伝承で成功する企業とそうでない企業の大きな違いはこの点に帰結する。現象面の解決で済ますか、本質的な解決を図るかの違いがここにあると言って良い。技能継承の解決は内部人材の養成に他ならないのである。多くの賢明な経営者はこの問題点をよく知っている。
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