遠隔実習の可能性を検討する
遠隔授業についてはその実施方法、実践事例などの記事は多いが、遠隔実習については少ない。
よく考えれば、困難であることを前提にして、話題にならないと推測される。
全国の大学におけるコロナ禍に対応した講義、演習、実験、実習についてのまとめがある。
それによれば、遠隔で可能なものは講義と演習に限られ、実験、実習は極力対面で実施していることが記載されている。
私たちは1990年頃からSJT訓練方法を使用して、技能訓練の自学自習を推進してきた。
ここでは遠隔実習について、実現が可能か不可能かを検討したい。
森 和夫 技術・技能教育研究所 2021/03/22
はじめに
遠隔授業についてはその実施方法、実践事例などの記事は多いが、遠隔実習については少ない。よく考えれば、困難であることを前提にして、話題にならないと推測される。
・ 全国の大学におけるコロナ禍に対応した講義、演習、実験、実習についてのまとめがある。それによれば、遠隔で可能なものは講義と演習に限られ、実験、実習は極力対面で実施していることが記載されている。
・私たちは1990年頃からSJT訓練方法を使用して、技能訓練の自学自習を推進してきた。ここでは遠隔実習について、実現が可能か不可能かを検討したい。
・大学等における後期等の授業の実施状況に関する調査 2020年10月、文部科学省調査
遠隔実習の範囲
・遠隔で実習をすることは限界が有り、全ての実習が可能となるわけでは無い。
・遠隔実施可能な実習=教育機関に設置してある教材を使用した実習(例えば、教室にある機材を用いた実習、課題実習など)は可能である。また、学習者の部屋に用意できる機材を用いたものも遠隔実施は可能である。
・遠隔実施が困難な実習=社会に出て、実習施設等で行う実習(例えば教育実習や工場実習、臨地実習など)は特段の配慮によって実習すべきで、遠隔による実施は困難である。現地に巡回して指導することは遠隔で実施は工夫次第で可能である
遠隔実習での配慮事項
・遠隔で実習を行うには、遠隔独特の配慮が必要で、この配慮無しに成果は限定的となる。
・危険を伴う実習、指導者による対面指導が必要な実習などは基本的には遠隔実習には向かない。配慮事項を導入しても限界がある。
・遠隔で行う際は指導者と学習者の時間を同一に出来るように配慮すること。時間のズレがある場合は学習者による自学自習の状態となり、指導者のアドバイスや確認などを得ることが出来ない。
遠隔実習に必要な条件整備
・遠隔で実習を行うには教材の整備が欠かせない。
・遠隔で行うには、その実習の指導書、教材、マニュアルなどが整備されていなければならない。その教材群には学習者の安全が確保されるように作成されている必要がある。
・実習の目的、実習の方法、成果確認の方法などは予め設定する必要がある。
・学習者からのフィードバックを確保する事が必要となる。特に、正しい手続きで実習したかどうかなど、記録もしくは報告を求めて確認できることが大切になる。
・シミュレーションによる実習は優れた内容以外は実施できない。模擬患者のような練習を積んだ人材が対象に、状態を再現できれば可能性はある。AIはまだ時期尚早だ。
SJTを遠隔実習に使う
・SJT訓練方法は遠隔実習に必要な条件を全て満たしている。
・SJT訓練方法は自己開発の名称である。OJTやOff-JTでもない第3の訓練方法である。指導者が訓練開始期、中間期、評価期にかかわる以外は自己学習を進めるものだ。指導者の関わり方は対面でも遠隔でも良いが、対面の方が望ましい。
・SJT訓練は技能訓練道場のブースを使用する。他者とは分離され、非接触を保つ。一定期間はそのブースを占有し共用しない。訓練終了時には機材を滅菌処理すると良い。
・指導者との会話、面談は全て技能マニュアルを搭載したパソコンで行う。このように自己完結型のスタイルを保持している。
技能教育道場とは何か
・道場とは、SJTを行うための全ての機材、マニュアルなどが用意された教育場所のこと。この場所で自学自習とコーチングによる教育が受けられる。
教育成果が常に「見える化」されていて、学習の進度が把握できる。
・道場の構成は下記の内容からなる。
技術・技能伝承マニュアル、訓練課題、学習の仕方ボード
管理ボード(学習進度表)、小道具・設備・道具、見本
技能教育道場
・訓練の模様を遠隔で指導者が見れるようにすることも良い。非接触で面談も可能となる。
SJTを使用した遠隔実習の薦め
・SJTを使用して遠隔実習を進めることで実習教育の成果を保証できる。
・SJT訓練方法を使用すれば、遠隔実習が可能となり、多くの問題を解決できる。ここで大切なことは使用する技能マニュアルが優れていることである。一般に設備・システムにこだわるが、「技能分析による暗黙知の分析」を含めてソフトに落とし込む関心・努力が少ない。収益をめざす活動には関心があるが、そうでないものは軽く扱う。注意すべき事だ。
・これらのアイディアは飛躍したものではなく、誰でも遠隔実習に反映できる。実践してほしい。
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徳島大学FDの歴史(2008年4月発行 発行者:徳島大学FD専門委員会)
授業評価アンケートによる講義の検討─ 2004年度前期調査結果の分析と提言─
(大学教育センター 教育評価・FD 部門)
授業評価アンケートによる講義の検討(2) − 2004年度と2005年度の比較と学部学科別の検討を中心に−
(大学教育センター 教育評価・FD部門)
2005年、教育評価・FD部門 報告(東京農工大学大学教育センター)
←こちらもご覧ください
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※森 和夫 略歴
職業能力開発、産業教育学・労働科学を専門とし、産業界を中心に活動。ライフワークは「技の上達」、博士(工学)。現在は技術・技能伝承、人材育成等のセミナー・講演の他、企業との共同研究、コンサルテーション、出版活動を行っている。現職は株式会社技術・技能教育研究所代表取締役、一般財団法人 職業教育開発協会代表理事。
主な経歴は東京農工大学教授(〜2006年3月)、徳島大学教授(〜2004年3月)、職業能力開発総合大学校教授、助教授、講師(〜2000年3月)。学会活動は日本産業教育学会、日本人間工学会、人類働態学会、日本教育心理学会などで活動。海外活動はJICAよりマレーシア、ガテマラ共和国、ボリビア、フィリピンに海外短期派遣専門家として派遣され技術教育の指導者養成を実施した。
基礎研究とプロダクツの関連
技術・技能教育研究所の研究は「技術・技能研究」「職業能力研究」「指導技術研究」の3分野から構成されている。これらによって技能習熟理論が構築され、能力構造論として集大成される。この内容の基盤にあるものは能力論である。この基礎研究から幾つかのプロダクツが生み出された。仕事分析手法CUDBAS、指導技術訓練システムPROTS、技能伝承システム、技能分析手法SAT、生産技術教育の方法理論、人材育成の見える化コンセプト、開発的指導法がそれである。これらのプロダクツは時代のニーズに対応して応用プロダクツを生み出した。社会で、企業で利用され進化することで、広大なアプリケーションが生み出される可能性を秘めている。
GINOUKEN Essential シリーズ(2021年版)は→こちら
技術・技能教育研究所の研究開発成果のバックナンバーから最新の成果までを収録
技術・技能伝承 、技能分析・マニュアル作成、大学教育FD・指導方法、 看護教育・クリニカルラダー、クドバス
技術・技能伝承論文集
2021年度に指導者養成セミナーを実施します
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のポリテクセンターで技術・技能伝承セミナーを開催します。
○ポリテクセンターでは、在職者向け職業訓練(能力開発セミナー)を実施しています。在職者の方ならどなたでも受講できます。
○職業教育開発協会は令和3年度は能力開発セミナーコースを、6月と12月に高度ポリテクセンター(千葉)、9月にポリテクセンター埼玉(埼玉)で開催します。
○セミナー名称は「技能継承と生産性向上のためのOJT指導者育成」です。
このセミナーの主な内容は人材育成計画作成法(CUDBAS手法の演習)、作業分析法(技能分析手法他)、技能指導法(5つの指導活動他)で、
指導者に必要な手法を短時間で学習できます。職業教育開発協会の保有する3つのツールの最短習得コースです。ご参加ください。
※パンフレットは→ こちら
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